やっぱり皮がスキ 26

M⑨

 朝6時を廻った辺りで首都高へ入った。
 うわぁー、これが首都高か。早朝だというのにクルマが結構走ってる。といっても混んでいるワケではなく、適度な速さで前のクルマに付いて行けるから丁度いい。
 首都高は複雑で難しいって聞くけど、最新のナビは優秀だ。あらかじめどっちの車線に寄ればいいかをアナウンスしてくれるから、睡眠不足でボンヤリした頭でも大丈夫。
 ビルの谷間を縫うようにして東京の真ん中をすり抜ける。やっぱすっごいなぁ東京は。走っても走っても全然ビルが途切れない。でも、東京タワーとか東京都庁とか景色は全然見えないのね。今朝は薄曇りだから朝陽が眩しくなくて丁度いいやと思ってたけど、これなら心配いらなかったのかも。
ビルの谷間を抜け、少し開けて来たなと思った途端に目の前にスカイツリー。本物だ! デカい! と思っていたら、テレビで見たことのある黄金のウンコのようなオブジェ。凄い! やっぱ東京だ! なんだか興奮しちゃう。ちょっと残念なのはジェフもハヤトくんも眠ってるから、「見て見て、スカイツリーよ!」、「ウンコのオブジェだ!」とか、はしゃげないことだ。
 一人で都心のドライブを堪能し、クルマは首都高から常磐道に入る。さあ、いよいよ千葉だ。と思った直後に流山ICの看板出てくるし。あっという間じゃん。
 最期の料金所を出たときの料金表示は360円。結局いくらになったんだろう? 最初が鳴門で3千いくら。橋を渡って5千いくらで、それからもチマチマ払って首都高入るときが1万いくらで・・・。判んない。2万円は超えてるのかな。
 さて、まだ7時か。待ち合わせはダニーズ留山(とどめやま)店に午後1時。ダニーズ留山店まではナビによると20分。思ったより早く着いちゃったな。ちょっと頑張り過ぎた。あ、コンビニだ。ちょっと飲み物でも買ってどうするか考えよう。
 駐車場にクルマを停めて、ホッと息を吐く。ジェフもハヤトくんもまだ起きないか。エンジンを切ってそおっとドアを開けた。
 クルマを降りると朝の空気が清々しく感じた。普段はもっと空気のきれいなところで暮らしているというのに。んーっと伸びをしてから、コンビニに入る。
 甘いの飲みたいからカフェオレにしよう。その前に千葉のコンビニ・ラインナップをちょっと物色。意外と変わらないなぁ。でも、カップ麺とかも西日本と東日本では味が違うっていうから、パッケージは同じでも中身は違うのかもなぁ。買って確かめようとは思わないけど。
 と、そのとき一つの商品に目が釘付けになった。
『鶏皮唐揚げ 勝浦タンタンメン味』
 しかも、千葉限定と書いてある。これは食べずにいられない。迷わず手に取り、アイスのカップと共にレジへ。逸る気持ちを抑えつつカフェオレを注ぐ。店員さんの「ありがとうございました」という声も聞き流してクルマへと戻る。
 そおっとドアを開け二人を確認すると、しめしめ、まだ眠っている。シートに座り、ドリンクホルダーにカフェオレを置くと、改めて鶏皮唐揚げのパッケージを眺める。
 勝浦タンタンメンって聞いたことないなぁ。この辺りでは有名なのかしら。でも、美味しそう。神妙に封を開けて匂いを嗅いでみる。あー、なるほど。思っていたほどガーリック系の匂いは強くない。では、早速いただくか。一切れ摘まんで取り出すと赤い。これは想像以上に辛いかも。辛いのあまり得意じゃないんだけど思い切って口に入れる。サクサクの食感とダシの効いた醤油味。美味しい~と思った途端、ドワーッと辛さが押し寄せてきた。うわー辛い。ヤバい。慌ててカフェオレで流し込む。
 あぁビックリした。攻めてるなぁ。こんなに辛くして買う人いるのだろうか? でも、もう一口いってみようか。パクリ。最初は美味しんだけど・・・あぁー辛い、カフェオレ! 今のはヤバかった。まだ口の中が痺れてる。
 舌を出してハァハァしつつもなんだか違和感を感じて助手席を見ると、ジェフが眠っていたときの姿勢のままでわたしを見ていた。
「Good Morning」
 ニヤニヤしながらそう云ったジェフは翻訳期のスイッチを入れた。
「何をお召し上がりになりましたか?」
「鶏皮唐揚げ。食べる?」
 ジェフの方へ鶏皮唐揚げを向けると、「私は持っているでしょう」とおかしな返事をしながら一切れつまんで口に放り込んだ。
「これは美味しいです。アサヒが飲みたいです」
 と再び手を伸ばしてきた。
「辛いの平気なの?」
「不合理であることは良くありませんが、これはちょうどいいです」
 2口目をモグモグしながら、またワケの分からないことを云った。
「もう到着しましたか?」
 窓の外を見廻しながらジェフが尋ねる。
「うん。あと20分くらいだけど、待合わせまでまだ4時間以上あるのよね」
「マドカ、疲れたでしょう? 少し寝たらどうなりますか?」
 そこは(少し寝たらどうですか?)でしょ。
「辛いの食べて目が覚めちゃった。なんか時間が潰せるスポットとか無いかな。ちょっと観光できるような・・・。検索してみようか」
 スマホに『留山 観光』と入力してみる。
「いい場所はありますか?」
「うーん、お寺と神社と、株式会社クジッテク? 注射針の工場見学だって。それから、UFO発見場所? なんだそれ?」
「さて、あなたはUFOを見ることができますか?」
 詳細情報の画面を開いてみる。
「どれどれ、あぁ、有名なUFO写真が撮影された場所が近くにあるんだって。ジェフ知ってる? この写真」
 菜の花畑の上に浮かんだUFO。子供の頃からUFOといえばこの写真だってくらい何百回も見て来た画像をジェフに見せた。
「ああ、判りました。これは日本で撮影されましたよね?」
「アメリカでも有名なんだ」
「そうではないのだろうか。空軍を志していたので、UFOにも興味を持って調べました」
「んん~・・・」
 そのとき後ろの座席から可愛らしい唸り声がして、覗いてみるとハヤトくんが目を擦っていた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「うん。いまどこ?」
「もう伯父さんちの近くまで来たよ」
 ハヤトくんはキョロキョロと外を見廻した。頭を振るたびにピョンピョン揺れる寝癖がカワイイ。
「でもまだ大分早いから、どこかで時間潰そうかと思って。UFOが発見された場所が近くにあるっていうから、行ってみる?」
「うん・・・」
 大して興味も無さそうな返事た。まだ寝ぼけているのかもしれない。UFO発見場所の住所をナビに入力すると、待ち合わせ場所のダニーズ留山店のすぐ近くだった。
「じゃあ、とりあえず行くだけ行ってみようか。それから朝ごはん食べに行こう」
「OK」
 翻訳機を通さないジェフの返事を合図に出発した。

 予想通りというか、予想以上になんにもない場所だ。ナビが示した場所は普通の住宅地の中にあるコインパーキングで、クルマも全然停まっていない。住所の入力を間違えたのかと思ったけれど、コインパーキングの隅っこに、『UFO発見場所』と書かれた石碑がひっそりと建っていた。
「こんなところに、UFOが来るの?」
 ハヤトくんが疑わし気な視線を送ってくる。
「昔、来たんだよ。10年も前の話だけどね」
 その間に菜の花畑も潰されちゃったのか。でも、近くには作付け前の畑がいくつかあったから、あれが菜の花畑かもしれない。作付けの時期はしらないけど。
「ふうん・・・。お腹が空いた」
 石碑には興味がないハヤトくんが不服そうに呟く横で、ジェフは遠くの建物を眺めている。その視線の先には大きく『フジテック』と書かれていた。
「あれが注射針の会社ね」
 そう云うと、ジェフは反対の方を見た。
「それでは、それは何ですか?」
 指さす先の大きな建物には看板が無い。なんだか学校のようだ。
「学校かな?」
「では、それはケーヨ大学ではないですか?」
 ジェフがやや興奮気味に云う。翻訳機はいつも通りの平坦な声だけど。
「あぁ、そうかも。ハヤトくんの伯父さんって、あそこに勤めているのかな?」
「わかんない」
 まぁ、わかんないか。近所の親戚ならともかく、遠くのオジサンの勤め先なんて普通は興味ないし。
「じゃあ、せっかく来たんだし、写真だけ撮ってご飯食べに行きましょう」
 気乗りしないハヤトくんを石碑の横に立たせ、ジェフとわたしが両側に立って自撮り棒で撮影した後、朝ごはんの店を検索する。お昼に行くダニーズは避けた方が良いよなぁ。近くなんだけど。道の駅とか近くに無いのかな? あ、あった。けど、柏市かぁ。ここからどのくらい掛かるんだろう? でも、時間あるし行ってみるか。あぁ、お風呂入りたい。

『やっぱり皮がスキ 27』へつづく


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