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#百人百色
82 思ひわびさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり
(千載集 恋 818)道因法師
1 紅に染まる夕暮れ_kei回顧
燃え尽きた炎のような
紅に染まる夕暮れ
わたしはいつもあなたを思い出す
あなたの温かい笑顔、優しい声、そして、わたしを包み込むような愛情
もう二度と会うことのないあなたを
わたしは深く、深く、愛してやまぬ
あなたのいない世界は
静かで、冷たく、そして、息苦しい
2. 春の芽出しを待ち焦がれる_kei回顧
わたしの心は
春の芽出しを待ち焦がれる冬のよう
それでも、わたしは生きている
あなたへの想いを胸に
わたしは今日も生きている
溢れる涙
それは、悲しみだけではない
あなたと巡り逢えた歓喜
何度産まれても
あなたと逢いて恋ふるであろう
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3 思ひわびさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり
わたしはあなたに
はじめてお逢いした日から
恋焦がれ
朝な夕な
あなたを想っているというのに
あなたはかくもそっけなく
わたしを置き去りにして
背を向けてしまわれた
あなたの居ないこの世など
生きていても何とせう
いっそ命を断てば
この狂おしさから解き放たれませうか
今宵もしとどに枕を濡らし
あなたを想ひ
滂沱と泣き崩れておりまする
命を断てず
恋心も断てず
つれないあなたに未練を残し
花 月 木々 夜空
美しく変わらぬ自然が
あることすら 気付くことなく
断ちたい命より
断ちきれぬ恋慕の寂しさよ
いっそ尼僧にでもなりませうか
この黒髪を一筋残さず失えば
涙を止められませうか
命より
断ちきれぬは
恋慕のこころ
わたしにはあなたしか
みえない
ほかになにも見えはしない
ねぇ あなた
一度でいいから
わたしを抱いてくれますまいか
あなたの指
あなたの肌
あなたの匂い
後生大事に持ち続け
ひとよの夢に
溺れ
酔いしれて
涙の粒を愛おしむ
変わらぬ想い
命果てるその日まで
枯れることなき涙の海に漂よわん
何度生まれ変わっても
転生輪廻
幾度も死んで幾度も産まれ
わたしはあなたと逢いませう
この肉体朽ち果て
土に戻りても
また産まれ
また出逢わん
また死んでまた産まれ
あなたと出逢わん
この世でもあの世でも
独りと独り
空虚の檻に潜みけり
4 老僧の哀れな恋心と乙女の涙
その老僧は
月を見上げ
若き日の恋うる想いを
詠んだという
素直になればよいものを
わざとつれなく突き放し
うら若き乙女の
つらつら流す涙の清さを愛し
己が心を押し隠し
これぞとばかりに
悲嘆の種を撒き
よよと泣き崩れる姿に
喜悦し
黒き欲情を気取られぬよう
背を向け
ほくそ笑むという
僧侶にもあるまじき
その色欲
押し隠し
乙女の涙を飲み干して
安寧の庵で
最期の刻
己が人生に
彩りを与えし乙女の姿を
くきりと目に浮かべ
一首を詠んだという
哀れなるかな
女に狂ひ
倒錯の恋に溺れし
老いさらばえて
虚空に細きその腕伸ばし
乙女の涙その一滴を
掴まんとす
浅ましき老僧の
歌は詠みつがれたとさ
5 そして今 keiは想う
夕暮れの薄明かりが
静かに街を染め上げていく
街灯が灯り
人々の足取り慌ただしくなり
それぞれの場所に消えていく
そんな中_
keiは一人
馴染みの喫茶店の窓際で
温かい珈琲をゆっくりと味わっている
窓の外には
街の喧騒が渦巻いている
しかし それらの音は遠く
keiの耳には届かない
keiの心は遠い過去へと旅立っている
あの日_
あなたは真っ赤なバラの花束を手渡してくれた
あなたの瞳は、燃えるような情熱で輝いていた
その輝きは
若きわたしの心を鷲掴みにし
わたしはあなたに恋をした
枯れ果ててしまったバラの花の感触を思い出す
幾年過ぎても不意に甦るあなたへの想い
心の奥底に深く沈み
時折、静かな波紋のように
心を揺さぶるだけ
それでも
あなたを忘れることはできない
あなたの笑顔、あなたの声、あなたの温もり、そして涙
それらは心の奥底に、永遠に刻み込まれている
あなたを想いながら珈琲をゆっくりと味わう
その苦味の中に
あなたの愛を感じている
人の世は
喜びと悲しみ
愛と別れで彩られている
それは、まるで、美しいメロディーと切ないメロディーが織りなす壮大な交響曲のようである
あなたを想いながら
静かに窓の外を見つめる
雨粒 ガラス越し 別れ
街の灯りは夜空に煌煌と輝き
あなたの愛のように
わたしの心を照らしてくれる
この世に生まれたからには
愛し愛され別離の繰り返し
わたしはあなたとの出会いを永遠に忘れない
それは、わたしの心に刻まれた
愛の痕跡_
さて
愛猫と夫が待つ我が家に戻るとするか
愛おしい黒猫と白猫
そして優しい夫の笑顔が
「にゃおん」「みゅう」
「kei お帰り」と待っている