父の手
日記覚書
母が食べ物をこぼすと、早朝、父より電話あり。
母に似合うエプロン(涎掛け)を持参せよとの指示にて、
何とか、好きそうな赤い小花模様の
ビニール状エプロンを選ぶ。
大層、似合った。母、鏡観て微笑む。
昼食時、ホームの介護主任さんに、外すよう言われる。
「専用のエプロンを皆つけていますから」と。
父、激怒。
「此処はルールルールか!持って来たモノを付けさせぬとはどういう事か!」
すったもんだ、一時間。
わたしも、かなり頑張ったw
結局、持ち帰る結果となる。
すっかり、しょげた父の手を触る。右手には仄かに体温を感じられるも
麻痺し、もうじき四年の左手は、完全に温度が無い。
触っても、父には分からぬと言う。
久し振りに、父の手を触り、その手に怯えていた頃を懐かしいと感じる自分に
気付き、涙腺緩む。
父は小さくなった。皮と骨になった。
帰る間際まで、両手をマッサージしてみる。
別れ際
「アレ(母)は・・呆けてしもうた」と、父呟く。
「お父さんのことを覚えてるじゃない。それでいいじゃない」
父が少し笑った