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ヌーの悲劇

結婚当初、夫には名前がありました。
(今もありますが)
動物番組観ていて「俺はヌーが好きだ」
と彼が宣言した時から、わたしは
○✕ちゃんではなく、ヌー、ヌーさんと呼び始めました。彼も気に入ってる模様。
24歳で結婚。新婚1年目で、思いがけない出来事に遭いました。
2人でドライブ中、横道からいきなり
黒い車が飛び出し私たちの前に割り込んで来たのです。当然スピード上げて車間は取る筈だと思っていましたが、今度はのらりくらりと運転したり
挙げ句は停車。
ヌーは察知したようです。其奴の腕に入れ墨が彫られていたことを。黙って待っています。

わたしは入れ墨など見慣れていました。父が会社のトップになる前、運送屋でしたから出入りする男性は極道さんが多かった。皆さん、堅気には手を出しません。「お嬢」と呼ばれ可愛がられました。背中の入れ墨を美しいと思う幼少期だったのです。

其奴は極道未満半グレだったのでしょう。突然のクラクション音に飛び出して来ました。ヌーもたらりと汗を流しています。まさかわたしがクラクションを鳴らすとは思っていなかったのです。
其奴は私たちの車に、正確にはドライバー席のドアに粋がって近付きます。
ドアをひらけと顎を上げ、ヌーは勿論開けました。
「きさん、なんばしよっとか!あん?」
ヌー
「す、すみません。つ、妻が鳴らしたんです」
土下座しました。
「あん?なんばオンナのせいにしよっとか!」



……蹴られました。
土下座したヌーさんを其奴は
蹴り倒したのです。

わたしは睨み、発車した黒い車に
更に大きくクラクション鳴らしました。
当然です。愛する夫が蹴られたのですから。まぁ、其奴の言うように妻のせいにすることはカッコ悪っ!と思いましたけど。ヌーは心底怯えていたのだから動転したのです。
クラクション鳴らされた男は、゙ボクチャン本当に怒っちゃったかんねー"顔で近付いて来ます。
扉に近付く瞬間 わたしは叫びました。
「急発進して!今すぐ!」

その後1時間弱追いかけられました。
わたしは助手席から手をだし
中指立てておりました。

結末:逃げおおせました。
問い:ヌーの悲劇はわたしがもたらしたのでしょうか。

ふと思い出した懐かしい記憶です。

おしまい