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風と木ーⅢ

#ショートショート


今日も今日とて

かの悪戯な風は

自由に奔放に生を謳歌しておりました。

しかし

何かが足りない。欠落しているのだ。

そうか、あの木だ!

善良なる風でありし、朽ちかけの木、奈落に落ちた木だ。


誰か居ないのか。

僕は孤独なのだ。
あの木が懐かしくすらあると
嘆息し

無闇に野山を走りつつ

何者か分からぬが欲するものを

目を凝らして求めていたとさ

ん?あの眩い花は何だ?いや、木か?

花は風にとって常に遊びの相手でした。

僕は、向日葵もチューリップもカトレアも撫子も皆好きさ。

と、まるで人間の雄がイケシャアシャアとのたまうように

花たちを喜ばせ、誰も選ばず、去っていくのでした。

君たちは皆、特別なオンリー1だからね、誰も選んじゃいけないのさ、と

ケタケタ笑い、捨てるのでした。

しかし、今、眼下に見える華やかなるピンクの塊は!!

そうか、あれが噂の桜というヤツか

久し振りにアドレナリン噴出させた風はいつもの如く桜に語り掛けました

「ねぇ、君、いや、君たちって呼ぶのが適切なのかな?桜ちゃん達、僕と遊ばないか」

「・・・・」

「無視?なぁ、桜の木さま、僕と遊んでくれない?」

いつもの花たちと様子の違う
桜に戸惑いつつも

その拒絶すら愉しみ

桜の言葉を待ちました

「あなた・・彼を嘲笑して見殺しにしたでしょ!」

「はぃ?彼って・・僕には男の趣味など無いがなぁ」

「口の上手い風よ
いや、本体は朽ちかけた木よ
あなたには誇りもなく
ただ騙るだけの芯の無い半端ものだわ。」

「失敬だな。僕は・・あぁ、あの木か。君たちは、僕と彼の約束を知らないから

噂や憶測でものを語るのだね。顛末を知っているのかい?」

要するに・・
木に倦み木たる自分を愛さず
正直な風さんと成り代わったということでしょ。

いくら饒舌に語ろうと、わたしたちは騙せなくってよ」

ふん。高慢なヤツらめ。

可愛さ余って憎さ百倍!

これも人間の雄的感情ではないか。

風は、最初、桜の頬を撫でるように

優しく微風で吹いておりました

がー

どうにもなびかぬ桜に腸煮え返り・・

ゴォ~~~っとつい本気で吹きますと

あらあら、はらはらと桜は舞い散り

そのサマの壮絶な美よ!と悶絶しかけ

やはり、もう少し桜を口説いてみるか、と思い直したのですが

時 既に遅し!

あぁ、かくも美しかった桜は
一輪も残らず、花弁を絨毯にする


あ!
かつての彼、死んだ筈のアイツが!

亡霊ではない、朽ちかけ君だ

いや、朽ちかけるどころか
威風堂々とは
アイツの様相ではないかっ!

やぁ、風、桜たちにもててねぇ
執念で甦ったよ。

絶望は敵だねぇ
僕は今、桜たちに囲まれ
いや、来年もまた咲き誇るよ。
木である自分を誇らしく生きるのだ。

敗者で在り続ける
或いは弱者に甘んじるということは

確かに僕の怠慢だったよ。

いやぁ、何事もやる気が一番だね。

昔の面影無くした
エナジーに満ち溢れた裸木は

堂々と語るのでした。

またゲームをやるかい?

君、桜の木になってみたいかい?


 お粗末さま☆

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