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風と木ーⅡ

#ショートショート
その朽ちかけた木は辛うじて朽ちず
ただ執念で気合で、仇敵を待っておりました

下を見れば奈落の急流
葉が落ちれば我が身を震わせ


いつか腐った根元から
ポキリと音たてまっさかさま

その終末を覚悟はすれど

あの風と、ボクであった風と会うまでは
持ち堪えてみせる!と
体育系の信心かw

兎に角 息も絶え絶えに
生きておりました

あれから幾年経ったことか

そよそよと微風が訪れ
「こんにちは、朽ちかけさん、今日もお元気ですこと」
微風の癖して性悪な風♀は
おほほと、笑い、弱った幹をなぞり、去っていく

ちっ!と舌打ちし
しかし激すればヤバイ、マジで危篤状態なのだからして
木は柔和に枝を揺らし挨拶する
「あぁ、ごきげんよう。今日も綺麗だね、微風ちゃん」
平気で嘘も吐けるようになりました
いつかいつかアイツが来る
絶対に朽ちないのだ
あの弁舌巧みな詐欺師たる風よ
ボクもようよう立つことに慣れて来た
堂々と温厚な姿を保つことも覚えた
微風の♀などマジで相手にせぬわ
風よ、お前は何処を吹いているのだ
そろそろ、風であることに倦んではいないか
ボクは学んだよ
キミによって、痛いほどに
擬態を忍耐を隠匿を苛酷を

なぁ、最期が来る前に
もう一度、ボクに会いに来てはくれまいか

絶望について語ろうではないか
不動と翻弄について語ろうではないか

・・・・・・・・・・・・・・・・・

元風であり現木であるボクは
ついに命の灯火が消えそうだ

元木たる現風よ
あぁ、最早、ボクはボクが何者であったのか
何者で居たかったのかすら
分からぬ

キミは風の生を謳歌しているか


朦朧としたまま、朽ちかけた木は
静かに渓流に落ちようとした・・


その刹那!

さぁーーーーーー!
一陣の強風!

「間に合ったか!?
おい、ボクだ、木よ、朽ちかけ君!」


「あぁ・・・キミはやはりそれ程に悪い奴では無かったのだ
ごめんよ
逆恨みしたボクを許してくれるかぃ」

「ん?
・・度し難い阿呆だな!ガハハハ

ボクが善良だと信じたいのかい?
君の死の完結に
キミの望むストーリーを
キミの安寧に至る為のボクを
今更 演じるとでも想ったのかぃ?

さ、安心して落ち給え
恨んで良~し!!
その怨念が
キミの再生に繋がる可能性に
一縷の望みをかけてみようじゃないか!

ボクはボクだよ
風であれ木であれ、ボクはボクを偽ったことなど無いのだ


堂々と偉そうに立ち、吹き、
いずれ、消え行くのみ

ん?ちとカッコ良すぎたかい?


南無・・
また会おうぜ、善良な小市民的キミ。」


続く・・多分続かないw


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