第12話 出逢い
🌻 実話を投稿する目的 🌻
🌻 前回までのあらすじ 🌻
7年前に腎臓の異変を指摘された時、亡き父の姿が頭をかすめた。父は、私が6歳の時にくも膜下出血を発症。奇跡的に回復したものの、ハンディキャップをもつ父を私は受け入れることができず。その矢先に父は他界。直後に不思議な現象に遭遇する。
母は家族を守るために身を粉にして働いていたが、家庭環境は悪化の一途を辿る。煩わしさから解放されたいと思った私は、家を出て自立を目指すことに。
第12話では、20代の頃に出逢った彼について振り返る(1733文字)。
1.タイミング
20代の春、私は未来に期待と希望を感じていました。
なぜなら、看護学校に入るための準備が整い、実家を出ることになったからです。
合格通知が届いたのは、工場で働き始めてから1年後のこと。
学費の目途もついたことから、私は仕事を辞め、都心にある学校の寮に入りました。
とはいうものの、自力で次のステージに進めたわけではありません。
仕事を続けることができたのも、学校に入るための勉強を続けてこられたのも、実家で生活をしていたからです。
ただ、家庭内の問題は解消されておらず、形を変えながらもくすぶり続けていました。
一方で、私の青春時代に彩を与えてくれた男性との出逢いがありました。
私は工場で働き始める前に別のアルバイトをしていました。
「彼」とは、バイト先で出逢ったのです。
一度目は偶然でした。
初対面の印象はこれといってなく、彼に対する存在感も薄いままにフェイドアウト。
二度目は数日後に訪れました。
私はバイトを辞める予定でいたので、その日は最終日でもあったのです。
たまたまなのか、必然だったのか、お互いに相手のことが気になり、連絡先を交換しました。
その後は遠距離になったものの、やり取りを重ねるうちに自然な流れの中で交際が始まったのです。
出逢いは絶妙な「タイミング」によって生まれました。
・2度目の再会があったこと
・遠距離が互いの心を引き寄せあうための吸引力になったこと
仮に、2度目の再会につながったとしても
・相性が良くなければ関係が深まることもなく、
・相性が良くても関係を維持できる環境に恵まれていなければ、
10年という交際期間に発展しなかったと思います。
私のエゴではありますが、彼には私以上に幸せな人生を歩んでほしいと願っています。
私は父に対してだけでなく、彼のことでも激しい葛藤と強い自己否定に襲われていました。
「自分を守るために彼を裏切り、傷つけてしまった」という気持ちに囚われていたため、彼を思い出す度に自分を責めていたのです。
ですが、別れてから10年以上も経った頃から、罪悪感に偏っていた感情に少しずつ変化が見え始めました。
彼に感謝する人生が待っていたからです。
2.色鮮やかな青春時代
遠距離恋愛をしていた頃に話を戻します。
当時、お互いに会うことができるのは週末だけでした。
高速バスによる長距離移動は、乗り物酔いをしやすい私にとって気持ちの良いものではなかったものの、その先に待っている彼との時間を想像すると、楽しみで仕方なかったのです。
田舎を離れて都会に行く。
束の間の時間ではあったものの、地元にはない景色や刺激にも魅了されていたため、私の胸はいつも高鳴っていました。
彼とはよくデートに出かけていました。
二人で街中を歩いていた時のこと。
すれ違った見知ら男に絡まれたことがありました。
その男は彼よりも背が高く大柄であり、怪訝そうな表情をしながら私のもとに近寄るや否や、言いがかりをつけてきたのです。
理由が分からず、一瞬にして恐怖に飲み込まれた私は、その場で体が硬直しました。
すると、彼が男と私の間に入り、体を張って守ってくれたのです。
彼の後ろ姿はとても大きく見えました。
その時ほど、彼のことを誇らしく思ったことはありません。
彼にとって私がどんな存在であるのかを、行動をもって証明してくれたような気がしたからです。
同い年の彼は、温厚で心根の優しい男性でした。
私はわがままを武器に甘えてばかりいたような気がします。
彼と過ごす時間はとても心地よく、伸び伸びと自由に振る舞うことができました。
私がどんなに身勝手な行動をとったとしても、彼が激情したり、乱暴に私を扱ったりすることは一度もありませんでした。
家族と過ごしていた時には体感できなかった「居心地の良さ」。
私は彼と過ごす時間の中で、経験することができたのです。
『このままつきあい続けていくんだろうなぁ。』
仲が良かっただけに、私はぼんやりと考えていました。
ただ、この時の私は気づいていなかったのです。
幼少期から押さえ続けてきた本心に突き動かされる日が来ることを……
つづく