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第6話 父の死と向き合う9歳の私
🌻 実話を投稿する目的と理由 🌻
🌻 前回までのあらすじ 🌻
7年前に受けた人生初の人間ドック。腎臓に異変が見つかり、亡き父の姿が頭をかすめる。私が6歳の時に父はくも膜下出血を発症し、植物状態に。面影は消え、変わり果てた姿に私は衝撃を受けていた。
父の入院に伴い生活は一変、母は家族を守るために昼夜働き始め、両親不在の時間が続く。突然の変化を受け入れるしかなかったものの、私の気持ちは追いつかずにいた。
3年後、奇跡的に回復した父は自宅療養に至ったものの、私はハンディキャップを負った父を見下し始める。その矢先に父は発作を起こし、帰らぬ人に。
第6話では、突如見舞われた父の死について綴る(1515文字)。
1.12時
幼い頃の私には活発で社交的な一面もありました。
勉強は苦手だったものの、遊ぶことや楽しめることについては全力投球だったと思います。
その日は「子ども会」に参加するため、私は朝から引率の大人たちとともに近隣にある市民体育館へ出かけていました。
ちなみに子ども会とは、小学生を中心に地域の子ども達が集う恒例の行事であり、農作物を育てる自然体験や運動会など、季節ごとにイベントが催されていました。
私は学校の行事だけでなく、楽しみがつまっている子ども会も好きだったので、積極的に参加していたのです。
ただ、その日に家を空けていたのは偶然だったのか、それとも必然だったのか……
いずれにせよ、私の人生に大きな意味をもたらすことになりました。
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午前中の予定が終わりかけた頃、私はふと時間が気になりました。
そのため、壁に立てかけてあった時計に目を移すと、ちょうど12時を指していたのです。
『もう12時か……。』
心の中でつぶやいていたその瞬間、そして、あの時確認した時刻が、今も忘れられずにいます。
なぜならその時間に、父が搬送先の病院で息を引き取っていたからです。
これも偶然だったのでしょうか。
後で経緯を知ることになりますが、私は父の死に目に会うことができなかったのです。
外出先で第一報を受けた私は、引率の大人たちに連れられ、慌てて家に戻ることになりました。
2.亡骸
記憶をたぐりよせていくなかで次に想起される光景があります。
それは棺の中に納められていた父の亡骸。
いつもなら父の布団が敷かれているはずの場所に、その日は棺が安置されていたのです。
父は白装束を身にまとっており、両鼻腔に詰められた脱脂綿がはっきりと見えていました。
ただでさえ異様な光景であった上に、露骨に見えていた綿が不自然さを醸し出していたので、私は一瞬にして不気味に思えたのです。
病室で父の手を握りしめた時。
私は手のひらの感触やぬくもりから、父が生きているという実感をわずかながらに感じることができました。
けれども今回は違ったのです。
「死」というものを咄嗟に理解することができなかったけれど、それでも明らかに、父はこの世のものではなくなっていました。
数時間前まで生きていた人間が、突然亡くなるという現実。
少し前までハンディキャップを負った父のことを見下していたはずだったのに、私の気持ちは遺体を見た瞬間から「入れ替わった」のです。
その時から父のことを蔑む私はいなくなりました。
その代わりに、『まさか死んでしまうなんて』と思う自分と、不気味さから『そばに近づきたくない』と思う私で、心の中が埋め尽くされていたのです。
人はどんな時に悲しい気持ちになるのでしょうか……。
父を想い、涙がこみ上げるようになったのは、幾日も経ってからのことでした。
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3.終止符
お葬式が執り行われた日の夜、担任の先生が家を訪ねてきました。
私は当時9歳でしたが、先生からどんな言葉をかけられたのか、思い出すことができません。
ただ、先生が神妙な面持ちで私の目を見つめていたことや、私を労ろうとしていたことだけは記憶に残っています。
父が倒れて以降、心の整理が追いつかなくなるほど、私を取り巻く世界は目まぐるしく変化し続けていました。
だからといって、辛いとか悲しいといった感情が湧きあがってくることもなく、父の遺体を目にした時も、その姿に圧倒されるばかりだったのです。
私と父は完全に切り離され、突如、終止符が打たれました。
しかし、死別から何十年も過ぎた頃から、凍結したままになっていた父との関係が少しずつ動き始めていくことになります。
なぜなら、亡くなったはずの父が私のことを見守ってくれていると、信じるようになったからです。
あなたは目に見えない世界のことを信じていますか。
忘れもしないお通夜の日、私は不思議な現象に遭遇しました。
つづく
第1話 人生初の人間ドック
~父親が命を削って遺してくれたメッセージとは~
第2話 その日
~境遇や生死を左右するほどの出来事に遭遇した際に発揮される力とは~
第3話 受け入れがたい現実
~自分について学び始めるようになった背景にあるものとは~
第4話 植物状態になった父
~変わり果てた父の姿に衝撃を覚えた日~
第5話 自責
~ハンディキャップを背負った父を見下し始めた日~
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