
【想像させて】会社のなまえ。
「五十嵐さん、先風呂入ってください」
「わりぃな! サンキュー!」
大学を出たあと地元を離れて生活をしていた川西は今日、街で偶然中学時代の先輩に会った。先輩は出張でこの街に来ていたようだが、久々の再会にホテルをキャンセルし、川西の家で一泊することになった。
ちょうどその頃、川西は起業するにあたり会社名をどうしようか悩んでいた。先輩がお風呂に入っている時も、ずっと考えていた。
「ダメだ! まったく良いのが思いつかない……」
川西は、持っていた鉛筆を指で回し、特に観てもいなかったテレビを見始めた。
30分後。
五十嵐が風呂からあがってきた。
「あー気持ち良かったわぁ、サンキュー!」
「いえいえ」
「なにしてんだ?」
「え? テレビ見てただけっすよ」
「違う違う。その紙と鉛筆よ」
「あー、今会社作ろうと思ってんすけど、会社名で悩んでんすよ」
「お前みたいな半人前がか?」
五十嵐は笑った。
「まあいいじゃないですか。僕ももう30ですし。将来のこと考えたら、そろそろ会社作りたいなって」
「お前らしいな。本当昔っからジッとしてないよなお前」
「そうっすかね。あっ冷蔵庫にビール入っているんで適当に飲んでいいっすよ」
「英語がいいんじゃないか? 今どきは英語よ」
そう言うと、五十嵐はそのまま冷蔵庫に向かい、取り出したビールを口にした。
「英語っすね〜。そうっすよね〜」
「くぁー! んまい!」
「風呂上がりのビールうまいっすよね〜。俺も風呂入ってきますわ。そこに布団敷いてあるんで、眠くなったら適当に寝ちゃってください。僕お風呂長いんで」
「サンキューサンキュー!」
「では」
「ウェイウェイウェイ! 会社を作るってことは簡単なことじゃないぞ。もちろん会社を維持することはもっと簡単なことじゃない」
「はい、理解はしてるつもりです」
「そしたら、半人前のお前が今後の日本を背負って立つ男になることを願って、特別に俺のじいちゃんの教えを説いてやる」
「お、あざす!」
「お前はどこまでいっても半人前だ」
「わかりましたって、半人前は(笑)」
「自分が一人前だと思ったら終わり。あぐらをかいても終わり。きっと従業員もいるんだろ? どんなに事業がうまくいっても調子に乗らないで、勉強する姿勢を絶対に忘れるな。これは死ぬまでだぞ」
「わかりました! では風呂行きます」
「ウェイウェイウェイ! お前はどこまでもいっても半人前。お前が一人前になるのは死んだとき! 生きている限り、お前はMAX半人前ってことだ。心に刻め」
川西は、風呂に浸かりながら再び会社名を考え始めたが、五十嵐が言った言葉が頭にこびり付いて離れなかった。
『どこまでいっても半人前……生きてる限りMAX半人前か……』
川西の作った会社はその後、日本の運送業界を支える重要な礎を築いた。

※この物語は想像です。登場する人物名、団体名は実在のものとは関係ありません。