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お醤油といえば

「おいしいお醤油をひとりで買えるようになりたい」

そんな思いが今回の盛り塩事件を生んだと思う。
そうに違いない。

私は実家で使っていた醤油が本当に好きで、家を出てからもう10年になるが、ずっと醤油を送ってもらっていたのだ。醤油が少なくなってくると「お醤油送って〜」と母に連絡をするのだが、それを申し訳ないとも思うことも度々ある。
今回は自分で醤油を買ってみて、美味しいものに出会うきっかけにしようじゃないか!そう思ったのだ。

いざスーパーに行くと驚いた。醤油とはこんなに種類があるのか。こんなんじゃ決めるだけで日が暮れるじゃないか。ずっと醤油の前でボソボソ言っている変な人になってしまう。
いつもは下調べをばっちりして買い物に出かけるのだが、醤油なんてそんなに迷わないだろうと思っていたのだ。


私の実家で使っていた醤油は『こんぶのおしょうゆ』というものだ。地元のスーパーでは安く手に入ることが多く、手が届かない商品ではない。とにかく風味が良く、甘みがある醤油でこんぶの味がしっかりするのだ。

ちなみに『八方汁』も実家でよく使っていた。

こちらも出汁の味がしっかりするもので、おでんなんかの煮物で母がよく使っていた。八方に使える万能だしというものらしい。私は使いこなせなくて、いつからか使わなくなってしまったが今度送ってもらおうか。

このふたつの商品はワダカンのもので、本社は青森県十和田市だ。なるほど、関東では手に入らないわけだ。
しかし、東京支店があるらしく探せば手に入るのか?


スーパーで迷っていた私は、昆布の味がするものならば求めているものに近いのではないかと考えた。よしよし!と絞っていくが、昆布だしの醤油も意外と多いのだ。決め切れないので一旦違うコーナーへ向かう。

決められない時は買わないをモットーに生きているのだが、今回ばかりはそうはいかない。私は実家から送られてきたごぼうで、きんぴらごぼうを作るのだ。きんぴらごぼうがとにかく好きで、届きたてのうちに食べたい!
勘がよくなくても気付いているだろう。ごぼうと一緒に醤油も送ってもらえばよかったよね?と。そうなのだ。送ってもらえばよかったのだ。醤油が少なくなっていることを忘れていたのだ。痛恨事である。

また売り場に戻ってきた私は、うんうんと悩みながらも値段が中間で聞いたことある有名なブランドの醤油を手に取った。もし合わなかった時のために小さめのボトルを手に取るはずもなく、大きいサイズを。
「ふつうにいっぱい使うよね〜」
私には、こういう所があるのだ。

無事に帰宅した私は、るんるんでごぼうを切る。どんどん切る。にんじんも少し切る。あまり好きではないが、彩りとしては大変優秀なので入れてあげるのだ。
「うわぁ、フライパンいっぱいだ〜」
私には、こういう所があるのだ。

どうみても一人暮らしの作り置きの量ではない。親戚がご飯を食べに来るからと、8人前ぐらいの大皿に盛られるきんぴらごぼうの量だ。

量が多いと味付けも難しい。まぁ、大体こんなもんかと目分量で調味料を加えていく。
「なんか味が薄いんだよね、醤油足してみる?」
「あんま変わらないかも」
ふと醤油のパッケージが目に入る。
『昆布しょうゆ 塩分カット』

濃い味が好みの私には減塩はつらい。ちなみにだが、しょっぱ口の父は刺身を醤油で泳がせる程だ。そんな父の娘であるのだ。

「私はひとりで醤油も買えないのか」

そう落ち込んだが、今はとにかく、きんぴらごぼうを完成させなければいけないのだ!
醤油を足しても仕方がないならば、もう減塩しょうゆに塩を入れるしかない。私は泣く泣く、塩を手に取る。

「あわぁぉえ〜」

気付いた時には台所に盛り塩。
私は塩の入っている容器を手から離してしまったらしい。
私にはこういう所がある。

やるよやるよで、やっちゃう子なのだ。
昨日、すっかり空っぽになった容器にたっぷりの塩を詰め替えたばかりだ。真っ逆さまになる前にキャッチできた自分を褒めたい所だが、とりあえずきんぴらごぼう!まだ火が付いているので先に仕上げなければ!

なんとか塩のおかげできんぴらごぼうは完成し、にんまり。一度は見ないふりをしたが、なんとなく手を合わせてから黙々と片付ける。
清められたし、床も綺麗になったし、きんぴらごぼうは美味しくできたし、まあ良いか。

それから2ヶ月が経ったが、作る料理の味がぜんぶ決まらない、気がする。醤油がどれほど大事なのか思い知らされた。
「浮気してごめんね、もう絶対しないから」
そう言ってはいるが、今の醤油を使い切るまで私はその子との関係を続けていかなければならない。
せっかくの減塩しょうゆに塩を足して使っている。
ただ、台所の床が綺麗で嬉しい。

「誰だこんなにでっかいの買ったの」

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