豊田陸人の「ハラスメントを考えるフォーラムシアター」体験記
お疲れさまです!豊田陸人です。12月1日に開催されました
「演劇の現場でのハラスメントを考えるフォーラムシアター」
ご観劇いただきました皆様、ありがとうございました!
劇作家協会からお話を頂き、取り組みました今回の企画は、
私、豊田にとって大変貴重な体験となりました。まずは、お話をくださった劇作家協会並びに関係者の皆様、観劇にお越しいただいたお客様に改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。
今回は、豊田陸人から見たフォーラムシアターがどのようなものだったかを
せっかくなのでここに記したいと思います。
目次も用意しましたので気になるところから読んでみてください!
フォーラムシアターとは?
元はアウグスト・ボアールさんが考案した応用演劇と呼ばれるもので
討論演劇とも訳されます。
形式としてはまず、
①問題を描いたスキットまたはアンチモデル(短い劇)
を上演し、
②二度目見るときは参加者が劇の最中を自由に止め、参加者は演技をしている役者に成り代わって、演技を通して考えた解決策を披露する。
というものです。今回豊田が取り組んだフォーラムシアターでは、
「演劇の現場においてハラスメントが発生する」という問題が描かれた劇を上演しました。
顔合わせとチェックアップ
24歳豊田陸人は劇作家として、もっと言えば演劇人として、もっと言えば
人間としてまだまだ半端であり、劇作家協会からお話を頂いて
参加しはじめた際は緊張して上手く意見を言うことができませんでした。
若手演劇人であればあるあるなこの感情。しかし、最終的には
ある取り組みによって豊田は恐れることなく意見を提示することができるようになりました。
チェックアップ
チェックアップとは今回のファシリテーターである花崎攝さんが行ってくださったワークの一つで、今日その日の自分の体調や感じていること、どんなことがあったのかを参加者全員円になってお話していくというものです。
話すことはなんでもよく、ただお話を聞いてもらうという過程、
これは、とても私にとって重要なプロセスでした。
はじめは確かに「何話そうかな。」「少しでも建設的な話題を」等々
思考を巡らせていましたが、本質はそこではなく、精神的な壁を取り払り、コミニュケーションを図るうえでのウォーミングアップであると解釈
した後には、気兼ねなく、「僕は朝食を基本食べないのですが……」
など、そんな話をし、その後始まる台本製作の話し合いにアイスブレイクした状態で挑むことができました。
コミニュケーションとハラスメント
ハラスメントが起こる経緯として、コミニュケーションの不足は
大いに作用しているとも、私は感じます。
これは当たり前ですが、コミニュケーションによって、自己と他人は
認識され、格を初めて持ち、関係が生じる。
しかし、なかなか創作の現場でそういったコミニュケーションは
所謂本題では無いので軽んじられる傾向はあるように感じています。
そりゃそうだ。俺たちは友達じゃないんだよ!仕事仲間であるはずだ!
私もまずは作品に向かって取り組んでいくことが重要だと思います!
しかし、一度脇に置いておこうという選択を取るならば、より慎重に行動を起こすことが必須になっていくのだなと思いました。
お互いの関係性によってハラスメントになり得る事案とそうでない事案が確かに存在する以上、明確な関係性(これも少し括りすぎた表現ですが)
が発生していない中で大胆な行動に出ることは例え認識をしていたとしても
危うさがマシマシなのです。
特に権力を有していない立場は自己開示する機会が素より少ないため、
留意しておかないと訴訟等の現実的な問題以上に人を苦しめかねないと捉えていこうと思います。
仕事仲間なのであればこそ、役割上最低限のコミニュケーションがしやすい環境を作っていきたいです。どうしたら良いかはまだ模索中ですが
今回のように時間を決めて、先輩方に自分のことを開示することが
できた経験はとても、その後の活動の性質上もありますが、有難いものでした。
そんなこんなで顔合わせも順調に終わり、以下のようなメンバーで
取り組んでいきました。
メンバー紹介
関根信一さん
活動に対する想いと責任感が内包されたお言葉で
常に現場をけん引していただき、率先して
アンチモデルでは加害者という
大変な役割をも担っていただきました。
そしていつも、若者である私の意見にも
丁寧に耳を傾けていただきました。
(アンチモデルでは劇作家:西荻窪役)
坂本鈴さん
初参加の私をたくさん、そして
一番に気にかけていただきました。またそれは
決して内部だけでなく、「若手を呼ぶこと自体が二次加害に成りえないか。」 そんなことも言っていただき、とても優しい、素敵なお方でした。
(役者:狛江役)
赤澤ムックさん
現場のとりまとめをたくさんしていただきました。
アイデアや構成についても誰もが納得するような意見をポンポンと出されて、尊敬の念を抱きつつ、ふと休憩時間になるとまるで先輩後輩のように楽しく、積極的に接していただき有難かったです。 (演出家:四谷役)
葛木英さん
アイデアをたくさん出していただきつつ、
では、その現象に一体どうしたら解決する糸口が
あったのか、どうすれば傷つかずに済むのか、
そうした現実をベースにしたお話をされていたのがとても印象的でした。問題を形骸化せず、取り組まれるお姿に姿勢を正しました。
(大女優:中目黒役)
山本タカさん
「昨年度の観劇の経験から、照明を客席と
フラットにしたい」等、クリティカルな提案をたくさんしていただき、僕はうなずくことしかできませんでした。普段から、自らの属性のようなものにも考えを巡らせておられ、思慮深く今回の取り組みに意見を出しながら、楽しく、活動が出来るように気にかけていただきました。
(制作:新宿役)
諏訪こばとさん
僕と同世代のこばとさん。しかし、環境にはじめ、正直ビビっていた私とは違い、どんどん意見を述べられてそれは台本だけにとどまらず、前回の経験から得た、形態のことまで。こばとさんが居てくれたおかげで私も縮こまっていないで意見を出そう!と思えました。ありがとうございました。
(役者:井草役)
花崎攝さん
メンバーを取りまとめるファシリテーターとして
様々な提案、教えを施していただきました。
私が緊張してしまっていることも最初に見抜かれ、言葉の一つ一つが勉強になりました。
実際に大学でも講師をされていらっしゃいますが
なんだか、私は今回花崎さんのゼミ学生のような気持ちで参加していました。
(ジョーカー)
原田悠里さん
また、今回は常に稽古場で制作業務や演出助手のような立ち回りを原田さんにしていただきました。
一つ外側の立場からのご意見は本当に参考になり、
またたくさんのことを手伝っていただきました。
原田さんのおかげで、スムーズな稽古進行が行えました。 ありがとうございました。
上演台本製作
8名の劇作家たちで行った上演台本製作において、私は演劇界における現実を知り、驚愕したとともに、若手の一人として問題意識を明確に再認識できました。
今回の活動のアンチモデルはハラスメントを題材としています。
故に上演台本の製作では
①どんなハラスメントが存在するのだろうか?(テーマ決め)
②ハラスメントが起きる経緯は?(プロット決め)
③どういった形で介入してもらうのがベターか?(構成決め)
と、おおまかにはこういった流れで皆で意見を出し合いました。
そして、活動はまず①から、
「地獄の演劇ハラスメントあるある発表会」が始まりました。
若手演劇人である私は苦戦を強いられました。うれしいことに圧倒的
経験不足。皆さんが苦虫を噛んだような顔をしながら、アイデアを出していき、その度に「漫画かよ」とか、「セッション(映画)じゃないんだから」と心の中でツッコミを入れていました。
しかし、これが現実。先輩方の胸中を察しながら、参加していました。
長い時間体重をかけて正座をしていると、足の感覚が無くなっていくように
なんだか麻痺したような面持ちで淡々と事実を語られる先輩も中にはいて、
過去の出来事とはいえ、心に深く残る事象であると感じるのは容易でした。
この記事を読んでいただく皆様には劇作家の皆さんがどんな思いで
この作品作りに取り組んでいるのかということにも心を馳せていただければ幸いです。
上演にあたって
今回、わたくし豊田陸人はフォーラムシアターにおける主人公、
傍観者の役割をもつ「高円寺さん」という役で出演しました。
(高円寺がハラスメントを阻止する!ってね)
観客の皆さんが僕の役に成り代わって披露していただく(ハラスメントが起きる環境を是正していく)ということです。
坂本鈴さんとのⅩでのスペースでも話ましたが(よかったら劇作家協会のXで投稿されているので聞いてみてください!)
この役割で一番難しかったのは、
「介入はしない程度に介入ポイントを提示する」ということです。
これは劇作家というより、一役者として難しかったポイントかもしれません。これによってミザンスや演技等を自分で考えていきました。
また、豊田は今回主人公としてのモノローグもあったので、
モノローグを執筆しつつ、良いバランスを模索しておりました。
(さすが劇作家協会、自分の台詞は自分で書き起こしました。これがちょっぴり楽しかったり)
フォーラムシアターのアンチモデルの製作、上演は、一方で普段の演劇では
経験出来ないようなシステム上の面白味が、今回とても印象的でした。
今回の企画に必要な、どんなハラスメントがどんな経緯で発生するのか。
また、どんなタイミングがあれば解決、介入がしやすいか。
我々はそんなことを考えながら製作していったわけなのですが、
実は、「どういうことをすれば、解決に至るのか」という今回の
本質と言ってよい部分については議題として後回しになることが多かったです。
なので、お客さんの一人一人が本番にて
披露してくださった解決方法はどれも我々にとって新鮮で且つ考察できるものが多くお客さんの想像以上に我々も考えさせられ、また救われたような気持ちになりました。(介入が出来ないからこそ。また僕は成り変わられること相まってフラストレーションがたまるのです(笑))
これこそ、身体がそこに存在するからこその演劇、でしか成しえない活動かと思います。そう感じられました。
こうした「現実を変える為のリハーサル」を共有し、
一つの観念をその場で作っていく
という試みはどんなメッセージを含んだ演劇よりも殊現実的な意味合いに
於いて強い価値があると認識しました。
まとめ
若手として参加した今回の取り組みは何度も言うようですが、
大変、僕自身の教育と言う面においても大変価値があることであったと
冷静に認識しています。
ハラスメントに限らず、認識が浅いうちは様々な価値観を享受することが大切だと私は考えており、そんななかでフォーラムシアターという形態は
作り手としても、また観客からの意見からも、多様な意見が板の上に乗りました。そうした環境でこれからの演劇界における一つの重大な
テーマについて考える機会をいただけたことをうれしく思います。
ここからはかなり持論なので間違ったことを言っているかもしれませんが、
私は一般企業に勤める両親を持ち、よく
「演劇界はコンプライアンス遅れてるよね、」と言われがちなのですが、
全くもってその通りだと思う反面
同列に扱うのも少し違うなと捉えています。
敢えてまとめて言うと
①価値基準
(演劇の良し悪しは数値化されていないので到達点が無く、売り上げや動員など目に見える数値でない
部分への執着を前に、仕事としての線引きが見えにくい)
②経済面
(座組にもよりますが、代替案を作成するほどの予算や余裕を持った日程を組むことがそもそも難しい。)
③自主性
(特に俳優はある一定、自主的な行動で
演劇に参加していることが多い。ビジネスとしてではなく)
こうした創作現場特有の性質はやはり、大きな企業と比べるようなものでもないとは思います。そして、それを変革していくにはそれこそ
劇団自体が大きくなったり、法律の改正?等をまったり、
時が解決するまで狸寝入りする他ありません。
であればこそ、可及的な命題は参加者側の意識改革でしかありえないのかと
感じます。上記のような側面がついて回る以上、参加している各個人の認識が現場に反映されるのは必至であります。
そしてそれを直ちに行動するというのも無理難題だということも演劇人の皆様なら分かっていただけるのではないでしょうか。
フォーラムシアターでは、それを「リハーサル」
またその経験から現実に持ち帰ることが出来ます。
今回の活動で、フォーラムシアターが持つ社会的な価値が分かっていただけたなら、とっても嬉しいです。
若手として、しかし自らにも権力が付与されていることを十分に認識して、
責任を持ち、観念と現実の側面から、何か演劇をしていく環境をより良いものに出来ないかを模索しながら、また自らの活動に邁進したい思います。
これからも一緒に考えていきましょう!!