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グリ下キッズ

 
  

大阪・ミナミの一角にいつのまにか若者が集まるようになった場所がある。それが通称「グリ下」。
 道頓堀川の戎橋えびすばしにあるグリコの看板の下はいつからかグリ下と呼ばれるようになったらしい…

「グリ下の少女」

 佐藤美桜さとうみおは、16歳の少女である。彼女は、薄暗いグリ下の路地を一人歩いていた。いつも感じる孤独感が、彼女の心を締め付ける。足早に進む彼女の内面には、誰にも言えない苦悩が渦巻いていた。
その時、突然、明るい笑顔を浮かべた少年が彼女に声をかけた。
「こんにちは、俺は賢人!」
 美桜は驚くが、少年の親しみやすい雰囲気に惹かれる。彼の名は今井賢人いまいけんと、17歳。彼は児童相談所から逃げて来たという。グリ下には、彼のように居場所を求める若者が多く、彼らにとってこの場所は心の拠り所となっている。

    美桜は過去のトラウマから他人との関わりを避け、不登校と家出を繰り返していた。家族や友人関係に悩み、誰にも心を開けずにいた。そんな彼女に、賢人が声をかけた。美桜は距離を置こうとしたが、彼の優しさに触れるうちに、少しずつ心を開き始める。賢人もまた、美桜に自身の過去を打ち明け、お互いに支え合う関係が芽生え始めた。
「俺、親父オトンに虐待受けて…でもこの前、死んだんよ」
 賢人の言葉に美桜は驚いた。
「えっ! なんで?」
「親父、アル中で、朝から酒ばっか飲んでるもん。飲んで暴れて、好き勝手して! 死ぬときも勝手に死んでもうた」
「。。。そっか、でもなんか寂しいね」
 賢人は黙っていた。その沈黙が、彼の苦しみを物語っていた。
 美桜は、思い切って自分の過去を打ち明けることにした。
「実はさ…私も小さい頃から、母親オカンに虐待受けてて、もう耐えれんなって、家出してきてん」
 彼女の手首には、リストカットによる無数の傷跡が赤く残っていた。賢人はその傷を見て、胸が苦しくなった。彼女は、賢人と関わることで、自身や過去の傷を受け入れる勇気を持てるようになっていった。一方、グリ下には様々な境遇を抱える若者たちが集まっている。彼らの複雑な感情や状況を目の当たりにし、美桜は自らの内面と向き合いながら成長していく。彼女は、絶望に包まれた若者たちの中心にいる存在だった。
    そんな彼女も孤独と苦しみに包まれていた。家族や友人たちとの関係は次第に希薄になり、美桜は深い孤独感に苛まれていた。その苦しみから逃れるために、彼女は薬物に頼るようになった。最初は気晴らしのつもりだったが、次第にその魔力に取り憑かれていった。
 ある夜、過剰摂取して意識を失ってしまう。幻覚と現実が入り混ざる中、美桜は自らの深層に潜む闇と向き合うことになる。自分が弱い存在であること、それを認めることを恐れ、悔しさを抱えていたが、今はその真実を受け入れる覚悟を持っていた。
美桜は、グリ下での生活に絶望する若者たちの姿を目の当たりにし、彼女自身も疲れを感じていた。そして、賢人や仲間たちと共に、新たな未来を切り開くためにグリ下を離れる決断をする。
「もう逃げへん。ちゃんとやる」
 美桜は、仲間たちに支えられながら、共に前進することを誓った。賢人との出会いが、彼女に変化をもたらしたのだ。
「グリ下を卒業!」
「めっちゃ嫌!バリ嫌!無理無理無理!」
「グリ下の卒業や!」
「私ガチでちゃんとしたいもん」
 美桜と賢人は、グリ下の路地を歩きながら、過去の辛い出来事や孤独を語り合った。お互いの心を開き、支え合いながら、新たな友情が芽生えていく。
 美桜は、自分の弱さを乗り越え、人とのつながりを大切にし、共に成長していくと決めた。その一歩を踏み出し、彼女は新たな希望と強さを手に入れた。

 それから、数年後……


「逆風の面接日」

 美桜は、これまでの人生で最も重要な面接に臨むはずだった。しかし、朝からすべてがうまくいかなかった。
 目覚まし時計が故障し、慌てて起きた美桜は、急いでコーヒーを飲もうとしたところスーツにこぼしてしまい、さらに交通渋滞に巻き込まれてしまう。彼女は電車の中で、自分の不運を呪った。

    面接会場に到着した美桜は、コーヒーのしみを隠すためにジャケットを脱いで、面接室に入った。面接官からの質問は厳しく、時には彼女の価値観や過去の経験に深く切り込むものだった。しかし、美桜は自分の失敗から学んだ教訓や、困難を乗り越えた経験を語ることで、それらの質問に落ち着いて答えた。
    面接官たちの厳しい視線が彼女に注がれ、次の質問繰り出される。
「過去に直面した最も困難な状況とは何ですか? そして、それをどのように乗り越えましたか?」
 面接官が尋ねた。
「チーム内での意見の不一致に直面した時、私はメンバー全員の意見を尊重し、共通の目標に向かって一致団結することの重要性を学びました」
    彼女は落ち着いて答えた。
「弊社に入社したい理由は何ですか?」
    美桜は自身の熱意と貴社の理念が一致していることを強調する。
「御社の革新的なプロジェクトに魅力を感じています。新しい技術を学び、それを社会に役立てることに情熱を持っており、御社でその夢を実現したいです」
 最後の質問がやってきた。
「あなたの弱点は何ですか? それにどのように対処していますか?」
 美桜は一瞬躊躇したが、正直に自分の完璧主義を告白することにした。
「私の弱点は、完璧を求めすぎることです。でも、それで、難しくなることも増えてしまうので、優先順位をつけ、計画的にタスクを管理することで対処しています」
 面接が終わり、美桜が会場を出るとき、面接官の一人が彼女に声をかけた。
「今日のあなたの姿勢は非常に印象的でした。逆境を乗り越える力は、私たちが求めている重要な資質です」

 数日後、美桜は会社から内定の連絡を受け取った。その瞬間、涙があふれ出る。彼女は、逆風の中でも輝くことができる自分を知っていた。最も重要なのは、状況に負けずに前進し続ける勇気だということを、彼女は深く学んでいたからだった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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