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007. 日本への興味
私の住むデボンには、日本大使館や領事館もないし、ジャパン・ファンデーション、ジャパン・ハウス、大和ジャパンハウス、ジャパン・ソサエティーといった日本関係の公館や民間の日英交流機関は全くない。また、日本人の互恵組織である日本クラブや日本人会もないし、県人会や大学の同窓会も全然ない。日本企業がないのでそこで働く日本人もいないし、日本レストランも非日本人経営のチェーン店が大きな町に少しあるだけである。中国人経営で日本人シェフがやっているレストランが1軒あると聞いているが、まだ行ったことはないし、どこにあるのかも知らない。
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私はロンドンに50年間住み、こういった日本関係の組織やサービスのことを熟知していた。毎日の様にどこかで行事があり、また仕事の関係や友人との会食には日本レストランを使っていた。日本クラブの理事や会報の編集長をしていたので、日本関係の情報が自然に集まり、それを記事にしたり、いろいろな人に情報提供をしていた。ロンドンの情報を書いた著書も十数冊に及ぶ。考えてみればロンドンの日本人社会に深く根を張って生きていたと言えそうだ。
日本に関してはロンドンとデボンの差は非常に大きい。100と1ぐらいの違いである。ロンドンが移民社会であるのに比べ、デボンは根本的に英国人を中心にしたコミュニティーであるので、日本がずっと遠い存在であることは当然だが、英国はITやメディアが進んだ国である。日本に関する情報は英国の隅々まで浸透している。デボンで初めて会った人でも、私が日本人だと分かると、日本食のことを始めとして新幹線、地震、津波、花見、日本庭園、アニメ、忍者等々、ありとあらゆる質問を浴びせられる。50年前に最初にロンドンに来た時に浴びせられた芸者、サムライ、空手等の質問に比べると英国における日本理解は飛躍的に進んだと思われる。そして誰もが「日本は行きたい国のナンバー1だ」とも言う。日本人としては悪い気分ではないが、逆に、私の説明が日本の判断の基準にされる可能性もあり、うっかりしたことは言えないことになる。正に外国に住む日本人はグラスルートのアンバサダーなのである。
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私の住むデボンの片田舎のモアトンハムステッドという村には驚いたことに日本語を話す人が7人もいる。もちろん私と私のワイフ、日本人陶芸家の田島さん(通称TAJA)、彼の元ワイフで日本で陶芸の修行をしたペニー・シンプソンさん、我が家の隣近所に住む元ロンドン大学日本学教授のブライアン・モエラン氏、元ブリティッシュ・カウンシルの東京事務所に長年勤務したニック・マッカーシー氏、日本に長く住んでいた写真家のスーザン・ダージェスさんだ。彼ら、彼女らは皆日本の良き理解者であり、我々は時々集まって交流を深めている。
これはイギリス人がいかに国際的かを示していると思う。多分、日本だけでなく中国、韓国等に住んだことのある人もたくさんいるに違いない。世界中に植民地を持った英国はまた世界中の人を受け入れてきた。ロンドンがその良い例であるが、地方ではその土地に住む移民自身の数はそれほどではないにしても、海外に住んだことのあるイギリス人が、その心の中にその国の文化を持ち込んでおり国際理解に役立たせている。日本人が海外に住みだしたのはそれほど昔ではない。それでも現在かなりの日本人が海外に住んでいる。こういう人たちが将来日本を国際的にし、国際理解を推進して行くに違いない。
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