010 夏のデボン
デボンはコーンウォールやサマセットとともに英国ではウエスト・カントリーと呼ばれて休暇を過ごす保養地として、また家族連れで海水浴やキャンピング、ウォーキングを楽しむホリデーリゾートとして人気がある。特にデボンの夏は快適である。北と南に海があり、エクスムアとダートムアという2つの広大なムア地帯の国立公園があり、海岸や丘陵地帯を楽しむことが出来る。
英国海峡に面したデボン南部のトーベー地区(Torbay)は英国のリビエラとも呼ばれ、温暖な気候、美しい海岸線に恵まれ、観光地としても一級である。ここにはブリクサム(Brixham)という漁港もあり新鮮な魚介類がデボン中に供給されている。デボンのフィッシュ&チップスはおいしいと言われているが、この漁港から水揚げされるタラ(codや haddock)を新鮮なうちに揚げるからだ。
ダートムアも夏は観光客で賑わう。特に学校が夏休みになると家族連れが英国中から押し寄せてくる。観光客を相手に商売しているホテルやB&B、ホリデーフラット、キャンピング場、キャラバン・カーやキャンパー・バンの駐車場、仮設住宅がずらっと並ぶホリデーパークをはじめ、レストラン、パブ、カフェから遊園地、アイスクリームの売店まで、夏のシーズンは書き入れ時となる。冬のあの寒々とした光景に比べると、ダートムアは蘇えり、生き生きとして元気で活発だ。
冬の間枯れていたシダ類も緑の葉を取り戻し、英国人がラッシュ(lush)と呼ぶ青草のたくさん繁った丘にはリュックを担いだウォーカーたちが歩行杖を持ちながらゆっくりと歩いている。ダート川を始めティン川やプリム川などのダートムアを流れる川の浅瀬の部分では子どもたちが嬌声を挙げながら水遊びをしている姿も見られる。ダートムア・ポニーの仔馬も大分成長し、母親から離れて行動するようになり、放し飼いになった羊や牛ものんびりと夏の日差しを楽しんでいる様である。
最近は地球温暖化の影響で気温が上がったと言われるが、ダートムアの気温は真夏でも20度前後である。それでも空気が澄んでいるので紫外線が強く、結構日焼けをする。川で水遊びをしている子供の背中が真っ赤にななっているのを見るのもこの季節だ。
デボンに住みだして気が付いたことだが、土地の人たちは夏のデボンをあまり楽しんでいない様なのだ。観光客が多くてどこに行っても混雑するのでウンザリしている様子である。東京やロンドンといった大都会から来た身にとっては観光地に住んでいる人たちはうらやましいと思っていたが、現実はそうでもなく夏になるとデボンを逃げ出してもっと田舎へと出かける人が多い。デボンの住人でキャラバンカーを持っている人がいるのをいつも不思議に思っていたが、もっと田舎へ逃げ出すための手段なのだと分かって納得した。また、通常の行為として夏休みには家族連れで海外へ出かける人も多く、都会から大挙デボンへ押しかけるホリデーメーカーと重なって、夏のデボンは人口の入れ替えが激しい。
英国の夏は短い、8月になるとすでに秋風が吹き始める。雨の日も多くなり戸外活動も少なくなる。イギリス人たちは短い夏を大いに楽しんでいるようである。(以下続く)