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021.ティンマス海岸

 前にも書いたがデボンは北と南に海を抱えたカウンティ(県)である。我が家はデボンのほぼ中央、ダートムア国立公園の中にあり、どちらかというと南(正確には南東)の海、イングリッシュ・チャネルの方が近い。イングランド南部に位置するこの海峡にはドーバーから始まりイーストボーン、ブライトン、ポーツマス、ボーンマス、シドマス、エクスマス、トーキー、プリマスといった有名な海岸がずらっと並んでいる。
 我が家から比較的近くて行きやすい海岸の一つにティンマス海岸(Teignmouth)がある。ニュートン・アボット(Newton Abbot)を通って車で30分ちょっとで着けるので、晴れた日などにはよく出かける。ティンマスはティン川(River Teign)の河口に位置し、古くから漁港、貿易港として栄えた。19世紀に鉄道が開通するとレジャーとしての役割も重なり、海水浴客や保養のために訪れる人が増え、シー・フロントやビーチが整理された。 

オールド・ポートには個人用のボートがたくさん係留されている

 現在でもティンマスは漁港、貿易港、レジャー用ビーチとして機能している。特に近くのニュートン・アボット周辺で採掘されるボールクレー(Ball Clay)の積み出し港として知られている。このボールクレーは焼くと色が白くなり粘着性がでるので磁器と混ぜることにより、より強度の強いセラミック製品となる。聞いた話では日本のトイレのメーカーもここからボールクレーを輸入しているそうである。また、今は行っていないが、ダートムアで採掘された花崗岩がストーバー運河(Stover Canal)を通してこの港まで運ばれ、ここから船で各地に運搬されたそうである。ロンドン・ブリッジもこうしてダートムアの花崗岩で建造された。

ここから日本へもボール輸出されるクレーが輸出される

 現在のシー・フロントは夏には家族連れの海水浴客で賑わう。ピア(Pier=レジャー用桟橋)にはゲームセンターやカフェやバーがオープンし一日中混雑する。漁港や貨物船の発着埠頭のあるオールド・ポートにはクラブ・スープ(蟹スープ)がおいしい「クラブ・シャック」(Crab Shack)レストランがあり、夏には予約が殺到するほどに人気だし、近所のパブも屋内から溢れた客が海辺に置かれたベンチでパイントを楽しんでいる。
 我々は夏にも何回か出かけたが、どこも混んでおり、駐車場を探すだけでも大変だった。一度は私の写真クラブの生徒を連れて行って撮影会をしたが、4台の車を一緒に止めることが出来ず、ばらばらに駐車することになり大変不便だった。それでも夏の英国の海岸は素晴らしく皆撮影を楽しんでくれた。

パブやカフェが1年中オープンしている

 それに比べてシーズンオフの海岸は人出も少なく、少々閑散としているが、それでも内陸部のダートムアに比べれば気温も少し高く、晴れた日などには海岸を散歩するだけでも気分が良い。犬を連れて散歩している人が多いが、ベンチに腰掛けて日光浴をしている老人もかなりいる。驚いたことに真冬でも泳いでいる人がいることだ。多分ローカルの住民で毎日のように泳いでいるに違いない。ここは冬でもほとんどのレストランやカフェ、パブ、商店などが開いているので困らない。

海岸線を走るGWR列車

 我々は冬の晴れた日などによく出かける。犬の散歩でも日光浴でも泳ぐのが目的ではなく、海岸を歩くのが目的だ。ティンマスからは長い海岸線をGWR(Great Western Railway)の線路に沿って次の駅のドーリッシュ(Dawlish)まで歩けるようになっている。エクスターからニュートン・アボットまでは列車の線路が海岸やエクス川やテイン川の河口をギリギリに走っており、車内から見る風景もなかなか素晴らしい。冬でも簡単に海岸へ行って楽しめるのは健康にためにもすこぶる良い。
(以下続く)


冬の海岸

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