本の紹介⑨ 中山七里
「テロリストの家」
中山七里
2020年刊行
何がすごいか、まずは設定が絶妙。
「敵対する関係である、公安とテロリストが同じ家にいる。」
これだけで早く読みたくなる。
はやる気持ちを胸に、書店をあとにし、カフェへ。
物語が大きく変化したのは、冒頭すぐの、テロリストに志願していた我が子の逮捕。
これを機に一家を取り巻く、全てが変化する。
「公安に勤める父」と、「テロリストに志願していた我が子」。
「テロリストを追いかける父親」と、「テロリストを志す我が子」。
この二人の立場と心情が、
家族、公安、警察、マスコミ、テロリスト、国民、さまざまな人を巻き込んで物語を進めていく。
マスコミや、同僚からの冷たい視線と、執拗で、容赦ない張り込みや監視、そして心無い言葉。
長年付き添ってきた妻と我が子たちの変容ぶり。
威厳ある父親と自負していた父親と、そうでないと気づいた時の辛さ。
公安としての立場、父親としての立場。
公安として、テロリストを許さないという強い気持ちと、父親としての我が子を思う気持ち。
公安のエースとして謳われるまでの実力があるが故に、父親としての姿を見せられない。
しかし、父親として我が子を思う気持ちも沸々と湧いてくる。
そんな二つの立場への葛藤と、自分が家族のことをほとんど知らないという切なさが主人公を追い詰めていく。
さまざまな仕掛けが至る所に散りばめられ、驚かされる。
作者の技術が高いためか、主人公の心情の変化に合わせて、こちらもドキドキしたり、イライラしたり、辛くなったりしてしまうほどである。
ミステリーから、社会問題、音楽まで、幅広く手掛ける中山七里さん。
本屋では、いつも目にするその名前。
本屋に行き「中山七里」という名前でつい手にとったが
伏線のはりかたと回収、流石としか言いようがない。
最後の最後まで手に汗握る展開。
中山七里さんを選んで、今回も正解でした。
数百円のコーヒーもいつのまにか冷めてしまうほど、集中して読んでしまいました。
たった一杯のコーヒーで数時間も。
お店の方、申し訳ありませんでした。