見出し画像

ガハハ先生ー人口減少と食料問題#5/5

(5)農業生態系の持続可能なマネジメントに向けて

ガハハ:V型、C型を問わず、農産物は消費者ニーズに応えて、農業者が創意工夫をしながら生産する。生みだされた付加価値は市場で評価され、農業者の努力が報われるというのが基本だ。ビジネスである以上、短期的な収益を優先して当然。他方で、農地などの農業生態系を良好な状態で次の世代に引き継いでいくには、中長期的な視点がどうしても必要になる。土地利用の規制や、農業生態系の適切なマネジメントを促す政策介入を行うことが、求められるアプローチなんじゃないだろうか。

なるほど:生態系から人間が受け取る便益、つまり、「生態系サービス(Ecosystem Services)」を持続可能な形で享受できるように政策介入しようという、EUの農業環境政策などで取り入れられているコンセプトですね。食料供給などの「供給サービス」だけでなく、大気、水の調節などの「調整サービス」、教育的価値、観光・リクリエーションなどの「文化的サービス」、土壌生成などほかの生態系サービスの供給を支える「基盤サービス」なども、トータルで、長期的な視野で考えないと、将来の世代が困ってしまいますものね。

デモネ:理論としては、至極もっともだと思うんだけど、実際に政策に取り入れるには、色々ハードルがありそうだよね。

なるほど:生態系サービスという言葉は、国際的には農業政策関係者の間でも共通言語になっているようだし、デジタル化の恩恵もあって、技術的には、政策やビジネスへの適用は十分可能になっていると思うよ。そもそも、欧米諸国で採用できている政策手法が日本で出来ないという話はないと思う。

ガハハ:私は、生活者、納税者にとって、農業・農村はどのような価値を提供しているのか、改めて考えてもらうために、生態系サービスのコンセプトが有効だと思っているんだ。また、その議論なくして、財政負担を伴う政策は実現できないし、農業・農村の価値提供をビジネスで支える新しい市場の創設も期待できないと考えている。原先生は、かつて「国民全員のコスト負担なくしてわが国の農業・農村の存続は、ほぼ不可能となっている…。「農」について、市場経済の場での価格といった側面を越えた価値に関する広い輿論の支えが不可欠なのである。(2006、pp.243)」と力説されていた。現時点でのC型農業について、私もまったく同感なんだ。

デモネ:先生は、「農」の提供する価値について、生態系サービスのコンセプトを使って、科学的知見に基づいて可視化し、議論をしていけば、「広い輿論の支え」につながっていくとお考えなんですね。

ガハハ:もちろん、情報の洪水、垂れ流しではダメで、コミュニケーションの工夫が必要だけれど、そこをスタートにしないと始まらないんじゃないかな。楽観的過ぎるかな。

デモネ:いえいえ、楽観的過ぎるくらいじゃないと、推進力が出ないと思います。私も、良い感じで、別の種類のモヤモヤ感が湧いてきました。来週もお時間頂戴できますか。

ガハハ:もちろん、喜んで。

出所:OECD編(2014)を参考に筆者作成。

【参考文献】
生源寺眞一(2008)「農業再建 真価問われる日本の農政」岩波書店。
デイビッド・モントゴメリー(2010)「土の文明史」築地書館。
原洋之介(2006)『「農」をどう捉えるか-市場原理主義と農業経済原論-』書籍工房早山。
OECD編(2014)「農業環境公共財と共同行動」筑波書房。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?