ガハハ先生ー生態系サービスの見せる化#4/4
〇価値判断のモノサシが大切だね
なるほど:先生、僕達が、新自由主義の信奉者でないことは、よくご存知のくせに、ずいぶん持って回ったおっしゃり方ですね。技術革新によって見せる化できる範囲が広がるに従って、逆に、農業・農村に関連する生態系サービスの全てを明らかにすることが難しいと実感されて来てるんじゃないでしょうか。供給サービスと他のサービスのバランスをどう取っていくのか、また、現役世代と将来の世代との間のバランスをどう取っていくのか、肝心なところは、どういう価値判断をするかにかかって来ますよね。
デモネ:文化的サービスの評価・分析なんて特に難しいわ。トラベルコスト法やCVM(仮想評価法)など、工夫を重ねて洗練されて来ていると言うけれど、美観や精神的充足、レクリエーションに、ましてや宗教、文化なんて、個人個人のものさしが一番尊重されるべき分野よね。幸い、共感消費的なビジネスは、ICTの活用で、消費側のこだわりと供給側のエッジの効いたモノ・サービスの1対1のマッチングを基本にしたマーケット創出も可能になって来てるけれど。関係者の集団で意思決定をすることが求められる土地利用の在り方なんて、同調圧力が強くてストレスが溜まりそう。
なるほど:価値観を一緒に揃えろと言われると気持ち悪いよね。将来にわたって持続可能な地域を実現するために、どの農地に何を作付けするか、あるいは、粗放化、休耕、森林化するかなどを考えるのも、農村景観を生かしながら、生産性を維持するための土地利用や圃場整備の進め方を検討するのも、関係者の多様な価値観について折り合いをつけることが難しい。けれど、地域で面的に合意形成しないと、効果は期待できない。決めなきゃいけないと思いながら、みんなが様子見を決め込む社会的ジレンマのような状態に陥ってしまうケースですね。
ガハハ:鋭い指摘だね。確かに、多様な価値観を尊重する社会の在り方、世代間のバランスをどうとるか将来への責任の持ち方など、従来から人間が直面して来た課題がむしろ鮮明になっているとも言える。ただ、これへの対応についても、生態系サービスという枠組を利用して得た一定のデータに基づいて、関係者が同じ電子地図を見ながら対話する、社会技術の革新が起こっているんだ。個別の農家に止まらない、地域全体での取組について、データに基づくシミュレーション結果を用いながら、シナリオ分析の手法によって意思決定を行うための様々なツールが開発されている。限界は厳然として存在するけれど、新たな技術を用いて、多様な関係者が参画した地域全体での合意形成、意思決定のあり方が進化するポテンシャルは大きいと思う。来週は、この社会技術の革新、新たなツールなどについて考えていくことにしようか。
【参考文献】
原洋之介(2006)『「農」をどう捉えるか-市場原理主義と農業経済原論-』書籍工房早山。
柴田晋吾(2019)『環境にお金を払う仕組み-PES(生態系サービスへの支払い)が分かる本-』大学教育出版。
農林水産省『農業DX構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~』 https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/attach/pdf/210325-18.pdf (閲覧日:2021年5月23日)
農林水産省『みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~』 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/team1-152.pdf (閲覧日:2021年5月23日)