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アングラの王子様 37

爆破予告の話に入ってから視聴者は減っていき、今まさに300人を切ろうとしている。
ほとんどの視聴者が本当に爆破されるかもしれないという興味本位で観ていたということがよくわかる。

「まあ想定の範囲内です。ここで観るのをやめる人達は、元々私達の演劇には興味ないですからね」
「でも、また問題になるんじゃ・・・」
「そうよ!ただでさえ、キャンパス内での評判悪いんだから」

国枝さんが私に加勢する形で、谷垣さんを責める。
しかし、谷垣さんはきょとんとした顔でこちらを見ている。

「他人の評判なんて気にしない人達だと思っていましたが・・・私の見立て違いでしたか?」

他人の評判が気にならないといえば嘘になる。
でも、演劇サークルに入ってから、他人の目や噂なんてちっぽけなものだの思えるようになったのも確かだ。
私と国枝さんが黙っていると、今度は今井君が口を開いた。

「僕はいつも誰かに値踏みされて生きてきました。今井ホールディングスの息子として、あいつはどうだ、出来がいいのかどうかとか、他人の評判は嫌でも耳に入ってきました。僕はそれが嫌で、自分以外の何者かになりたくて、このサークルに入りました」

今井君の入部の理由を初めて聞いた。
いつもみんなに注目されている今井君だが、本人にとってはそれが負担になっていたのだ。
パソコンの画面に映るお芝居を見つめながら、今井君は続ける。

「でも、今回のお芝居で気付きました。自分以外の誰かになろうなんて、それは自分の運命から逃げてるだけだって。僕が本当にやるべきことは、他の誰でもない、今井トウマとしての自分を示すことなんだって」

そう言って、右手をぎゅっと握った。

「きっと届きますよ、その気持ち。少なくともここにいるメンバーには届いてますから」

谷垣さんはそう言って今井君の肩をぽんと叩いた。
初めてのお芝居で主演を演じたのだ。
その重圧が肩に乗っていたのかもしれない。
谷垣さんもう一度軽く叩くと、今井君の肩がすっと軽くなるように見えた。

谷垣さんは仕切り直しとばかりに手を叩いた。

「さて。お喋りはこの辺にしましょうか。そろそろ、犯人も動き出す頃でしょうから」

そう言って、スマートフォンを取り出してパソコンの横に並べた。

「これは・・・?」
「ライブ配信です。まあ、裏番組とでも言いましょうか」

スマートフォンの画面に映し出された唐沢マリンが、つまらなそうにパソコンのモニターを眺めている。

『ていうか、爆破予告ネタにしてんじゃん。こいつらマジ腹立つ〜。もう爆破しちゃおっかな〜』

気怠そうにそう呟くと、即座に何人かがコメントを寄せる。

『賛成!こいつらは我々を愚弄している!』
『こんな屈辱・・・初めてだぜ』
『爆破だ、爆破!』

「何ですか、これ・・・」

驚きの声を発したのは今井君だった。
唐沢マリンが犯人であることを今井君にだけ伏せていたんだった。

「今回の事件の黒幕ですよ」

今井君は動揺した様子で、唐沢マリンの配信を見ていた。

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