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アングラの王子様 34

「と、いうわけで、動画サークルの全面協力の下、定期公演はライブ配信と致します」

谷垣さんにそう言われても、すぐには飲み込めずに反応に困ってしまう。
他の2人も同様に黙り、ライブ配信について考えている様子だった。
そんな雰囲気を察してか、谷垣さんが続けた。

「確かに、舞台演劇の良さは、その場に居合わせた人のみが味わえる空気感、一体感です。ライブ配信ではこういった演劇本来の良さが損なわれてしまいます」
「そうです。そこに一番こだわっていたのはあなたでしょ?」

付き合いが長い国枝さんが返した。

「はい。今でもこだわりは捨てたくありません。こだわりを捨ててしまうなら、やらなくていいんじゃないか、そう考えた時もありました」

爆破予告があってから、谷垣さんなりに悩んでいたのだ。
演劇サークルの部長として、定期公演をやるかいなか、そこにのしかかる責任や重圧は、もしかしたら私達には計り知れないものなのかもしれない。

「でも今回は・・・悪意を持って私達を妨害しようとしている人がいる。そんなこと許されるはずがありません。そこで一つ、私は爆弾魔と戦ってみようと、そう思ったわけです」
「戦う?」
「そう。もちろん、演劇の力で」
「演劇の力・・・」

谷垣さんが最近繰り返し言っている言葉だ。

「定期公演を通常通り開催した場合、おそらく犯人は現れません。本当に爆破するつもりなら、会場には現れず、少し離れたところから爆破の様子を確認するでしょう」

確かに、会場に来てしまったら、爆破に巻き込まれる恐れがある。

「それでは、犯人に演劇を観せることはできませんよね。そうなると、我々がわざわざ台本を変えてまで稽古をしている意味がなくなります」
「確かに」

思わず口をついて出てしまった。
私の様子を見て、谷垣さんはふっと笑って、続けた。

「定期公演がライブ配信になると、どうでしょうか。犯人は変わらず、会場から少し離れたところに潜伏するでしょうが、それと同時にライブ配信も観るんじゃないでしょうか?」
「何のために?」
「爆破が起きて、私達が慌てふためく姿を見たいからです」

主犯の唐沢マリンは、「私達が泣いて謝る姿を見たい」とはっきりと言っていた。

「そして、これは私の推測ですが・・・爆破は、クライマックスのシーンで起きると思います」
「どうして、そう思うんですか?」

今井君が質問した。
今井君は、犯人が唐沢マリンだということを知らない。

「定期公演をやめさせることが目的だったら、開演直後を狙うんじゃないでしょうか?」
「犯人の目的が公演をやめさせることだったら、そうですね。ですが、犯人の目的は別にあります。おそらくは私達への復讐。そうなると、1番いいところで爆破を実行するというのが心情なんじゃないでしょうか?」

今井君は今ひとつ納得がいってなさそうだったが、唐沢マリンの性格を考えると、なんとなく想像できる。

「でも、クライマックスで爆破されたら、逃げようがないんじゃないですか?」
「もちろん、それについても秘策を用意しています」

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