見出し画像

アングラの王子様 25

ライブ配信が終わってしばらくすると、鍵付きの配信の方がスタートした。
先程とは打って変わって、唐沢マリンは素に近いような喋り方をしている。

「はぁ・・・なんか疲れたんだけど」

こちらは5人ほどの視聴者が既にいて、唐沢マリンの一挙手一投足にコメントを欠かさない。

『お疲れ様~♪』
『水分摂ってね!』
『火曜日はちょっと講義が過密過ぎる気がする』

鍵付きということもあり、先程とはコメントの質も違うようだ。

「今日は新入りさんをこっちに連れてきたよ」

『新入り?』
『おめ』
『俺は見ていた。初見で3千円なんてなかなか見どころがあるじゃないか』
『あまりここの人数を増やさない方がいい気が』
『古参アピおつ』
『秘密は少人数で共有するから秘密になりうるわけで…』

私たちが鍵付きの配信に入ってきたことに対して、波紋が広がっている。
「秘密」というワードが引っ掛かる。
それって、爆破予告のこと?

「谷垣さん、もしかして、この鍵付きの配信って…」
「そうですね。ここで爆破予告の計画が練られているのかもしれません。ですが、まだ確証が得られていません。油断せずに、慎重にコメントをしていきましょう」

『お初です。初見ですが、よろしくです』

当たり障りのない、かといって堅苦しくもないコメントだ。
それに対して、何件か反応のコメントがあったが、すぐに流れていった。
とりあえず、この鍵付き配信に溶け込んだ、といったところか。

「なんか最近、インスタの反応が良くないんだよねー。みんな拡散してくれてんの?」

『もちろん!』
『サブ垢でも拡散してる!』
『マリン様の美しさを理解できない奴らは時代に置いて行かれて消えていくから気にすることはない』

「まあいいわ。ちゃんと拡散しといてね。それから、こないだのカメラマンだけど、注文多すぎるから他の人に変えたいな」

『確かに!カメラマンは変えるべき』
『あいつは下品な角度から撮り過ぎだ』
『良ければ、カメラ歴10年のおいらが撮りますよ』
『抜け駆けはNGだぞ』

話題はインスタでやってるモデル活動のことになった。
鍵付きの配信っていうから、もうちょっとダークな話なのかと思ったが、意外とまともなのかもしれない。
そう思ったときだった。

「そういえば、あいつらどうなった?」

唐沢マリンが急に話題を変えた。
―――あいつらどうなった?
これだけで通じる話がある、ということだろうか。

『絶対ビビってると思う』
『誰か様子見に行ってないの?』
『あんなとこ、行くの面倒』
『俺の情報によると、かなり狼狽えている模様。アングラから走って出ていく女の姿が目撃されている』

アングラ、という言葉が出てきてドキッとする。
谷垣さんが目配せをしてくる。

『定期公演は中止だな』
『計画通り』
『爆破予告されちゃ、仕方ない』
『また俺達の勝利、だな』

その時、バン、という音がした。
唐沢マリンが手を叩いた音だということに少しして気が付いた。

「ぬるい。ぜんっぜん、ぬるいわ!私は、あいつらが泣いて謝る姿が見たいの!そして、今井トウマ。あの男も絶対振り向かせてやるんだから」

『振り向かせる?』
『付き合うってこと?』

「振り向かせて、私無しじゃ生きていけない身体にして、それであっけなく振るの。そのときの絶望した顔、見てみたいなぁ」

唐沢マリンはうっとりと微笑み、いつの間にか手に持っていた赤ワインのグラスを傾ける。

いいなと思ったら応援しよう!