正直者の頑張り屋が損する話
僕は、自分でも言えるほど正直者の頑張り屋だと思う。それを誇りに思っている部分もある。もしかすると、嘘をつけるほど頭が良くなく、頑張るしかないのかもしれない。妻からも「目を見れば考えていることはすぐに分かる」と言われる始末。正直者の頑張り屋ゆえに得をすることもあれば、損をすることもある。今回は損をした話。
学生時代、とある飲み会があった。目上の方も参加する席で、僕は学年も立場も一番下っ端だった。宴もたけなわ、そろそろお開きかという時間帯。注文しすぎた料理がテーブルにたくさん残っていた。こうなると、若手の男が処理役になる。その役は僕と同期の調子が良い奴の二人で担うことになった。
僕はすでに腹いっぱいだったが、おごってもらう以上失礼なことはできない。僕は「いただきますね」と言って、大皿に残っていたご飯や肉系の食べ物に箸を伸ばした。当然、調子の良い同期も同じようにするかと思ったが奴は違った。「俺、甘いものだったらいくらでも食べられるんですよ」と言って、小さなカップに入ったプリンやケーキばかりを食べ始めたのだ。
僕は愕然とした。そんな甘くて小さいものだったら、僕だっていくらでも食える。そこを我慢して、まずは腹にくるごはんや肉系から片づけていっているのだ。甘いものは後からでも詰められる。料理を残さないという目的のためには、まずは強敵から倒していかないといけないのに、奴は強敵である大皿には手を出さない。雑魚ばかりを倒しているのだ。
しかも、奴が食べる甘いものは小さいカップに入っていたため、積み重ねればたくさん食べたように見せられる。一方の大皿料理はたくさん食べても見た目にはあまり減ったように見えない。そいつはホイホイと甘いものだけを食べてはみんなに見えるように空のカップ重ねていった。やった風の見せ方がうまい。
周囲からは「おぉ~、食べるねぇ」と奴への賞賛が送られていた。僕は少し悔しかったが、料理を残さないという目的達成のため、黙々と大皿料理を食べることにした。腹がはちきれそうになるまで食べたが、少し残してしまう結果となった。僕に称賛は送られなかった。
世の中こんなものである。調子の良いやつは調子の良い風の見せ方をする。正直に頑張ろうとしたら、周りからの賞賛を得られないこともある。でも、僕はこれからも大皿に手を伸ばしていく正直者の頑張り屋でありたい。そして、そんな人が評価される世の中であってほしいと心のすみっこで願う。