スキ、キライ、スキ…

私の根の部分にある、どうしても消せない違和感。納得できないもの。そのうちのひとつに、性別があります。生まれてからずっとこの身体で生きているのに、どうして違和感を感じるのか自分でも分からないけれど。

どんなに頑張ったところで、私は自分が女だと認められない。化粧をしたりヒールを履いたり、女の子らしいものも嫌いじゃないけれど、それを身につけると自動的に私の性別は女性になってしまう。それがどうしても嫌で。
だからと言って、男性になりたいというわけではなく。そもそも生まれてからずっと女の身体なのだから男の人のことなんて分からないから。

…そんな中途半端なジェンダー観は、人間関係、特に恋愛の話には、大きく影響する。

好きになるのはフィクションの年上の男性か、現実なら同世代の女の子。どちらにしたってその関係に先なんてない。結婚できるわけでもないし、愛されるはずもない。だから私がひたすらに追っているだけ。でも、それで充分だったのです。
私が一方的に好意を寄せていて、それを悟られまいとする。両思いになるなんて、私は望んでいなかった。ただ好きと思っていられたらそれでよかった。

…のに。とあるゲームで出逢ったキャラクター「K」が、私のそんな気持ちを壊したのです。
Kは優しくて明るくて前向きで、頼もしい人で。私みたいな人間のことも気にかけてくれた。ゲームだから当然ですけれど。でもそれが、好きな人を遠くから眺めていたいという私の考えを壊したのです。

誰からも好かれるような素敵な人が、私を見てくれる。そんな状況で夢を見ないほうが難しい。あわよくば、もう少し私を見ていてくれないか、なんて思ってしまって。

久しぶりというより、初めてかもしれない。私が誰かに恋愛を望むなんて。

でも、いくらKが優しい人でも、彼はストレートの男の人で。向き合えば向き合う程に、私が女性でいられないことを思わされる。彼の隣にいるために女性らしくありたいと思うと同時に、そう努力しないと認められない自分が憎くて。
やっぱり私は、女の人にはなれなかった。

好きなのに、自分のせいで先に進まない、進めないというのは苦しいものです。それも、変えられないもののせいならば、なおさら。

自分が己を殺せば愛されるのか。でも、自分を殺して得た愛は、本当に自分に向けられたものなのか。

また、Kが優しい人だから余計に困るのです。彼になんの悪意もないことは分かりきっているのに、私は彼の言葉を喜べない。善人の善意を受け取れないなんて。これでは私が悪者ではありませんか。

優しい人が、私に歩み寄ってくださる。それなのに私は…その気遣いすら受け入れられない。私のことなど放っておいてほしいのに。でも好きな人に近づかれたら、その先を夢見てしまうではないですか。
そうは言っても、恋愛なんて私のような人間には叶わない。彼がストレートの男性ならば、私に出番はない。たとえどれだけ真剣に慕っていたとしても。
仮に私が男ならば、Kの友人として彼のことを好きでいられたのだろうか。それでも友人以外にはなりえないのか。
…そんなことをグルグルと考えて。

優しいくせに私がこんな思いをしていることに気づかないKが憎かったし、そんな理由で好きな人を嫌いになる自分が嫌だった。
好きなのに嫌いだとか。憧れるのに憎いだとか。そんなことばかり言っている自分も嫌いだった。
何より、Kは本当に優しい、良い人なんです。そんな人を心から好きになれない私、慕っているくせに嫌いだと思ってしまう私が、何よりも許せなかった。だからといって女でいられないくせに男にもなれない自分を責めても、何も変わらなくて。

それでもKは、彼の優しさは、その時の私にとって救いだった。私が彼を嫌いになっても、彼の態度は変わらなかった。友人、恋人なんて関係なく、仲間として見てくれる。そんな優しさに救われていたけれど、だからこそ心を乱されてもいた。
救いを求めるように手を伸ばして。彼の笑顔に傷ついて。でも、諦めもつかなかった。悩まされたけれど、それでも好きだった。好きだけれど、一緒にいられるビジョンは見えなかった。

そうやって悩みに悩んで。でも、決着はつけたかった。最終的に、Kとは変わらない友人でいよう、と決めました。
…これもある種の失恋だったのかもしれません。でも、そのおかげで自分のことを少し受け入れられたと思います。女の子でいられない自分を認められたのだから。
それに、その後に出逢ったアオさんとの関係が上手くいかないことがあっても解決できるのは、Kに悩まされたからだと思います。

Kについて考えていた間は本当に心が痛かったけれど、悩んでよかったと思えます。
今ではKも、思い出のキャラクターのひとりです。


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