SEIKINは今宵ラブソングを奏でる。

帰り道。
静寂な視線の先の落ち葉の囁きが、風と共に俺へ季節を告げる。

寒さに耐えながら歩く孤独感にはいつだってSEIKINが寄り添ってくれる。
彼が創り上げた「Keep Your Head Up」という曲は、恐れないで進めと俺の心を奮い立たせてくれる。

でも、SEIKINには足りないものがある。




SEIKIN……ラブソング1曲も無くないか……?




SEIKINだって、ラブソングを生み出してもおかしくないだろ。
GRe4N BOYZ(旧GReeeeN)だって、
AquaTimezだって、
ラブソングを書いているのだから。


ポンちゃんと結婚をしている訳だし、全く恋愛を知らないわけでも無いだろう。出会いがお見合いなんて情報もないし、チビキン(SEIKINの子供)なるものも存在している。
それに、1年前にはHIKAKINも結婚したし、いよいよ遠慮なんてものも必要ないはず。

彼の恋愛観を知りたい。
彼にとって、恋とはどういったものなのだろうか。
我々には知る権利があるし、彼には報告する義務がある。
だって彼は、アカペラミュージシャンなのだから。

YouTube登録者数400万人のうちの4割くらいには需要があると思う。
教えてくれ、俺らのラブソングを。



【400年後・・・】


「おい、起きろよ。はやく。おい。」

その声は…………SEIKIN……さん…………。


「どうしてそんなに寝ていられるんだよ。おかしいだろ、お前。」

寝ぼけ眼を擦りながら、ゆっくり瞼との別れを交わす。
うっすら笑みを浮かべたような声が聞こえてはいたが、そこからは想像できないほどの真顔のSEIKINさんが視界に入る。



「って、SEIKINさん?!なんでここに?!!?」

「なんでって。お前は馬鹿かよ。この地球には、俺とお前しかいないんだよ。一緒に行動して当たり前だろ。」


突然、脳裏に焼き付く記憶が俺を襲う。俺の母親が苦しむ姿や大切な親友の死体がどんどん朽ちていく様子が。

西暦2025年7月、この地球には何者かの陰謀により大量の毒ガスが撒き散らされた。一瞬にしてそのガスは地球全体を飲み込み、全人類、いや全生物を消滅させてしまったのだ。人間2人を除いて。
そのうちの一人が、俺だ。なぜ自分が毒ガスに耐え抜いたのか、原因は自分自身にもわからない。そしてもう1人が、あのアカペラ界でも名高いYouTuber SEIKINなのであった。

俺は新宿を彷徨い歩いている時にSEIKINさんと出会った。そして即座に彼は、
「やっと俺以外の人間を見つけた。早くこれを飲め。もう、ポンもチビもいない。この世界には俺とお前だけだ。この2人でなんとか生き延びて、この地獄を乗り越えるんだ。」
と言い、怪しげな液体を差し出してきた。

「ちょっ……なんですかこれは!こんな絶望を乗り越えるって……もう無理ですよ……!」

「それは、寿命が延びる薬だ。この毒ガスに耐えられているんだ、この薬の副作用なんてどうってこと無いはずだ。はやく飲め。」

話を聞いていくと、SEIKINさんには歴史があることがわかった。なんと何万年も前から生きているのだといい、何度もこういった毒ガス事件を経験しているらしい。つまり、俺が生きた時代の生命の繁栄はSEIKINさんによるものだということだ。毒ガスが充満した地球のサバイバル生活は、進〇ゼミで習得したものによるらしい。



「……ったく、よくこんなに呑気に寝ていられるな。」

「すみません、最近は手持ち無沙汰でつい……。文明の発展……俺たち2人には、これが限界なんじゃないですかね。」

「まぁそうだろうな、今できることはやりきった。あとは時間が経つのを待つだけだ。
ところで、ひとつ見せたいものがある。こっちに来い。お前が毒ガスの除去に勤しんでる最中に俺がこっそり作っていたんだ。」

「えぇ!なんですか?」

「お前がずっと欲しがっていたものだ。ほらどうだ。これを作るのに、400年もかかってしまった。すまないな。」

そう言って、紙を渡してきた。400年前のあの時と、同じ手で。

「…………SEIKINさんこれは……!」



そこには、長い間彼に求めていた2文字を意味する文章と、五線譜が描かれていた──────。



俺には、もう相手いないのにね。



はい終わりじゃあ終わり
オチ弱(笑)

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