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【歌詞考察】22/7「春雷の頃」口づけを交わした一時の歌【物語論】【音楽】
22/7(以下ナナニジ)の12thシングル『後でわかること』のカップリング曲には『春雷の頃』がある。私は、これこそ名曲だと思い、気に入って聴いている。曲の歌詞内容は、「君が好きだった僕が街中でキスをするその一瞬の出来事と春の雷と重ねたその気持ち」を表したものとなっている。
『春雷の頃』は、「君が好きだった僕が街中でキスをするその一瞬の出来事と春の雷と重ねた気持ち」を表したものとなっている。
長文になるので、まず結論をあげておこうと思う。
『春雷の頃』の歌詞は、今思う気持ちを同時的に説明したり、キスを交わした状況を回顧的な思いを繰り返しながら歌い返すことで、臨場感あふれる気持ちの盛り上がりや、「僕」の「君」への想いが歌いこまれている。
一方で、表題曲である『後でわかること』は、君がすきだった僕が別れてしまった後、その存在の大切さが、後で(土曜日/Saturday)わかるという歌詞になっている。
つまり、この『春雷の頃』の歌詞は、12thシングル『後でわかること』の歌詞と比べると、『後でわかること』の歌詞の答えがこの『春雷の頃』に見出せるようにも思われるものでもあり、逆に『春雷の頃』の僕に対するメッセージとなるのが『後でわかること』となるようなストーリーをつくりあげることもできるのである。
曲の構成は、歌割、ユニゾン、そして最後の台詞となっており、ナナニジらしいポエトリーリーディングになっている。
はじめに、説明を理解しやすくするために、できればナナニジの美しい楽曲「春雷の頃」を確認していただきたい。
以下、物語論的視点から『春雷の頃』を読み解いてみる。
まずは、『春雷の頃』の歌詞を確認していただきたい。
『春雷の頃』の歌詞
1Aメロ
どんなに君ををすきか?ってこと
千の言葉 使ってみても
僕が伝えたい気持ち
きっと伝わらない
遊歩道に夕日が沈んで
君の髪が黄金に染まり
美しいそのオーラに
誰も心奪われる
1Bメロ
ここに引き留めたかったから
そっと 勇気出してみた
プラタナスの木の下で
足を止めて見つめ合った
1サビ
雷が鳴っていた あの春の日
僕らははじめてキスをした
震える肩先 君を抱きしめながら
唇が触れたのは一瞬だった
それでも永遠に思えた
ああ 雨が降りそうだった
ああ 僕も泣きそうだった
2Aメロ
君を思えば思う その分
僕の気持ちこれっぼっちも
伝わっていない気がして
不安でいっぱいになる
2Bメロ
あんな行動取って
何か確かめたかったのか
君に拒否されてしまえば
きっと楽にもなれるだろう
2サビ
雷が近づいた あの夕方
僕らは一つになれたかな
いつまでこのまま 唇重ねてればいい?
あと何秒 あと何秒 待ってみようか
できれば離れたくなかった
ああ 空が暗くなって来た
ああ なんか気まずかった
ブリッジ
君は覚えているかい?
ずっと遠くで鳴ってた
僕の気持ちと君のその思い
いつしか ふと惹かれ合い
ごく自然のに目を閉じ
言葉のその代わり唇重ねた
大サビ
雷が鳴っていた あの春の日
僕らは初めてキスをした
震える肩先 君をだきしめながら
唇が触れたのは一瞬だった
それでも 永遠に思えた
ああ 雨が降りそうだった
ああ 僕も泣きそうだった
台詞
「ゴロゴロとゴロゴロと 雷が鳴ってた」
「あれは 僕らを急かしていたのかもしれない」
「だから 雨が降り出さないうちに」
「はじめてのキスは春雷の頃」
以下、物語論的視点から、歌詞を読み解いてみようと思う。
『春雷の頃』の物語論的視点
語り手
『春雷の頃』の歌詞の登場人物は「僕」と「君」となる。歌詞の語り手となるは「僕」であり、「一人称小説的」となっている。自由直接話法を利用し、ミメーシス性が高いものになっている。「僕」の気持ち、行動を臨場感高めて表現している歌詞となっている。
語り手となるのは、物語世界(『春雷の頃』の歌詞)の中の登場人物である「僕」となる(物語世界(内)的)。
そのため、「僕」の気持ち、「好き」や「泣く」との感情表現は数多くあるが、相手の「君」の気持ち・言葉を表す言葉が歌詞にあまり含まれていない。
語り手は、「僕」の「君」への気持ちを表現する部分と口づけを交わした様子が説明する部分がある。「君」への気持ちを表す部分は主観的な感情を表す表現が、言葉数豊かに表している。
2Aメロ
君を思えば思うその分
僕の気持ちこれっぼっちも
伝わっていない気がして
不安でいっぱいになる
一方で、雷が近づいた時に僕らがキスをした様子の説明には、「僕」の気持ちを引用する言葉はない。第三者的立場から、口づけを交わした様子の説明が行われて、「三人称小説的」な表現へと移り変わっているのである。
1サビ
雷が鳴っていた あの春の日
僕らははじめてキスをした
震える肩先 君を抱きしめながら
唇が触れたのは一瞬だった
それでも永遠に思えた
ああ 雨が降りそうだった
ああ 僕も泣きそうだった
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物語言説の時間、順序
『春雷の頃』の歌詞は、「僕」が「君」に対し想い考えている歌詞は同時的に語っている部分(現在形になっている部分)がある。例えば、
1Aメロ
どんなに君ををすきか?ってこと
千の言葉 使ってみても
僕が伝えたい気持ち
きっと伝わらない
遊歩道に夕日が沈んで
君の髪が黄金に染まり
美しいそのオーラに
誰も心奪われる
がある。
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「僕」と「君」が口づけを交わした過去を回顧している過去の出来事を回顧的に歌っている部分(過去形になっている部分)もある。例えば
1サビ
雷が鳴っていた
あの春の日僕らははじめて
キスをした震える肩先
君を抱きしめながら
唇が触れたのは一瞬だった
それでも永遠に思えた
ああ 雨が降りそうだった
ああ 僕も泣きそうだった
などがあり、現在の「僕」の「君」への気持ちと過去の口づけを交わした様子を回顧する「僕」と分けることができる。
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物語言説的に歌詞は、
1Aメロ→1Bメロ→1サビ→
2Aメロ→2Bメロ→2サビ→
3Aメロ→ブリッジ→大サビ→台詞
と並んでいる。
歌詞の物語内容では、街中で口づけを交わした過去と、その時の「僕」と「春雷」を省みている現在を交差しながら、作り上げられている楽曲となっている。したがって、『春雷の頃』の歌詞の物語内容の時間的位置の時間順序を辿ると次のようにガラガラと変わってくる。
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ところで、挿入的に差し込まされた部分となっているブリッジの役割も注目すべき部分である。
君は覚えているかい?
ずっと遠くで鳴ってた
僕の気持ちと君のその思い
いつしか ふと惹かれ合い
ごく自然のに目を閉じ
言葉のその代わり唇重ねた
このブリッジの挿入的に入る部分は、曲的にもアップテンポであり、盛り上がる部分となっている。
「僕」と「君」が惹かれ合っていることが、はじめて歌詞に出てくる。「君」への問い掛けが行われ、「僕の気持ちと君のその思い」「ふと惹かれ合い」など、「僕」だけの気持ちではない、「君」の「思い」もあり、その「君」からの答えとなるのが、「言葉のその代わり唇重ねた」ことが分かる重要な部分となっている。
頻度
物語内容における出来事の生起の回数と叙述の回数については、1サビと大サビにて、同じ歌詞が繰り返し歌われている反復法を使用し、印象的なメッセージとなる歌詞である。「三人称小説的」な表現によって、春雷の時にはじめてキスを交わした様子を説明している。
雷が鳴っていた
あの春の日僕らは初めてキスをした
震える肩先 君をだきしめながら
唇が触れたのは一瞬だった
それでも 永遠に思えた
ああ 雨が降りそうだった
ああ 僕も泣きそうだった
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パースペクティブ・焦点化
物語世界の情報を把握するために誰の視点を採用するか(あるいは採用しないか)ということを扱う領域である。内的焦点化 は、 ある登場人物を「視点人物」として、その人物によって知覚された事柄のみが描かれるもの。外的焦点化 - ある対象(特に登場人物)を描く際に外面のみを描くもの。思考や感情は窺い知れないもの。
「僕」の「君」への気持ちを表現する部分と口づけを交わした様子が説明する部分がある。
「君」への気持ちを表す部分は主観的な感情を表す表現が、言葉数豊かに表し、内的焦点化された部分となる。
一方で、雷が近づいた時に僕らがキスをした様子の説明には、「僕」の気持ちを引用する言葉はない。第三者的立場から、口づけを交わした様子の説明が行われて、外的焦点化された部分となる。
『春雷の頃』のパースペクティブはそれぞれの場面によって移り変わりを見せ、複雑な構成となっている。
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曲の変化とパースペクティブの移行は順応に対比しているわけではなく、1サビは外的焦点化、2サビは内的焦点化、大サビで外的焦点化となっており、曲の複雑性を高めた展開となっている。
ライブ
この曲は、22/7 Summer Live 2024『Magic School Days 〜夏の夜空と最後の魔法〜』セットリスト(8月31日(土)公演)で披露された。
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ナナニジメンバーの歌声
個人的には、『春雷の頃』で、特に活躍したナナニジメンバーは、月城咲舞、麻丘真央、四条月、河瀬詩だったと思う。
月城咲舞と麻丘真央のデュエットから始まり、四条月と河瀬詩のデュエットへと移り、それぞれのメンバーへと歌声が移り変わっていく。はじめの月城咲舞、麻丘真央、四条月、河瀬詩の四人の歌声が力強く響いていた。
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これまで聴いていた曲では、月城咲舞と四条月の活躍はあまり目立たなかったように感じていたため、この四人にフォーカスされたような歌声によってつくられた曲だと特にかんじたのである。
緊張感与え、盛り上がりを見せるブリッジの部分では、天城サリーと望月りののパワフルなスピード感のある歌声から始まる。ゆっくり歌っていた曲の中に、突然挿入的歌いこまれている二人の歌声は力強いものがあった。
涼花萌の卒業と『春雷の頃』
この日に、涼花萌が卒業した。その時のナナニジメンバーと涼花萌との関係と『春雷の頃』の歌詞を重ねて聴けば、この『春雷の頃』の一曲は大変哀愁漂う寂しい曲のようにも聴こえていた。
例えば、口づけを交わしたのが一瞬だったが永遠に感じた部分や「いつまでこのまま 唇重ねてればいい?あと何秒 あと何秒 待ってみようか、できれば離れたくなかった」との歌詞は、ナナニジメンバーと涼花萌とで一緒に活躍した時間は一瞬だったように感じたが永遠にも思えた。メンバーと涼花萌は「できれば離れたくなかった」とナナニジメンバーの気持ちを代弁しているかのような曲にも感じたのだった。
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ナナニジメンバーが語る『春麗の頃』
ナナニジメンバー(相川奈央、西條和、四条月)が『春雷の頃』について語ったインタビュー記事がある。
おわりに
『春雷の頃』は、「君が好きだった僕が街中でキスをするその一瞬の出来事と春の雷と重ねた気持ち」を表したものとなっている。
今思う気持ちを同時的に説明したり、キスを交わした状況を回顧的な思いを繰り返しながら歌い返すことで、臨場感あふれる気持ちの盛り上がりや、「僕」の「君」への想いが歌いこまれている。
ブリッジの部分については、楽曲としてもアップテンポなもので緊張感あたえ、曲の終わりへ向けての盛り上がりを見せているのと同時に、歌詞の中でも「僕」と「君」がお互いに惹かれ合っていることがはじめて説明されている重要な部分となっている。
パースペクティブについては登場人物の内的思考(「君」への想い)を歌う部分と、「僕」と「君」とのキスの状況説明が交互に行われ、その組み合わせ方も単調なものではなく、複雑な構成を作り上げているものとなる。
曲の構成は、ナナニジらしく、歌割、ユニゾン、台詞を組み合わせた曲である。
このように、多様な工夫をいろいろ組み合わせながら作り上げた一曲となっている。
この『春雷の頃』の歌詞は、12thシングル『後でわかること』の歌詞と比べると、『後でわかること』の歌詞の答えがこの『春雷の頃』に見出せるようにも思われるものでもあり、逆に『春雷の頃』の僕に対するメッセージとなるのが『後でわかること』となるようなストーリーをつくりあげることもできるのである。
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