脱炭素社会から見る総合商社
目次
(1)商社の変遷
(2)各商社の収益構造
(3)脱炭素の影響
(4)再エネ事業への取組み
(5)どうやって生き残る?
(1)商社の変遷
みなさんは商社と聞いてどんなイメージを持っているだろうか?多くの人がエリートが多くカッコいいイメージを持っているであろう。
実際に就活生の間でも長年人気な業種である。
そんな商社はそもそも何をしている企業なのだろうか?
商社は「ラーメンからロケットまで」という言葉があるように多様な事業を行なっていて、トヨタやドコモのように事業のイメージが湧きにくい企業でもある。
商社はもともとトレーディング関連の仲介役として利益を得てきた。具体的には海外のメーカーから仕入れてマージンを上乗せして日本の小売業などに売るという取引である。他にも穀物や資源などの取引の仲介などでも収益を得てきた。しかし、グローバル化が進むと同時に国内で商社不要論が囁かれ始めた。多くの企業はグローバル化が進む前までは海外企業とのコミュニケーションが円滑に進まなくて取引過程が複雑であったため商社に頼らざるを得なかった。しかし、多国籍企業などのように直接海外で生産に乗り出す企業が出始めたりインターネットの普及によって簡単に海外とのコンタクトが可能になった。このような発展によって今まで貿易関連事業で立場を誇っていた商社の危機的状況に追い込まれた。そこで各商社は貿易業務で培ってきた幅広い業種の知見を活かして事業投資にビジネスモデルを転換していった。
その主な具体例が各商社のコンビニ事業への投資である。
商社が事業投資によって利益を上げるのと同時に今までのノウハウを活かして新たな事業を創出して自身で運用する事業経営モデルも行うようになり、より川上(生産)に近いところまで進出するようになった。具体的な例としては、海外の鉱山や油田の権益を買って生産から販売までを行う事業を各商社は行うようになった。
このように商社は時代の変化とともにビジネスモデルを再構築して常に利益を上げてきた。
(2)各商社の収益構造
次に商社の収益構造を見ていく。商社と言っても全ての商社が同じような事業を行っているわけではない。それぞれの企業に強みや弱みがある。三菱や三井は資源部門が強い。伊藤忠は非資源部門が強みである。資源などのボラティリティー(変動率)が高い部門は収益に大きく影響するため現在のような資源価格が不安定な状況下では伊藤忠商事が総合商社の中で利益率を伸ばしてきた。
(3)脱炭素の影響
総合商社は、日本の食料、資源確保に大きく貢献してきた。その代表格とも言えるのがロシアとのパイプライン開通事業であるサハリン計画であった。日本は地理的に資源が乏しく常に海外からの輸入に頼ってきた。つまり資源を確保することは国策として重要であり三井と三菱はそのプロジェクトを成功させたことによって日本の電力は保証されていると言っても過言ではない。
そんな日本社会に大きく貢献してきた商社が2015年のパリ協定をおきに国際的に圧力をかけられる事態に直面した。なぜなら、各商社はCO2を多く排出する火力発電の建設をベトナムなど海外での案件を請け負っていたからである。その流れを受けて各商社は化石燃料関連の事業撤退を矢継ぎ早に表明した。
つまり、各商社(特に三菱、三井)は強み事業を手放したと言える。資源事業が収益構造の大半を占める企業にとっては、事業ポートフォリオを見直す必要性が出てきた。
(4)各商社の再エネ事業への投資
脱炭素の世界的な流れを受けて各商社は、再生可能エネルギー事業へ舵を切った。日本自体も脱炭素を受けて2050年のカーボンニュートラル実現を発表して、政府主導でエネルギー比率の見直しを図るための再エネプロジェクトを計画している。その主な投資対象は「水素」と「洋上風力発電」であった。
水素はCO2を排出しない資源として以前から注目されていた。実際に各商社は川崎重工やENEOSなどと連携して海外で生産した水素を液化して輸送するビジネスを検討している。また、洋上風力発電では日本は海に囲まれているため発電能力が高いことから最も注目されている発電法である。しかし、日本の海域は海底が深いところが多くヨーロッパに比べて洋上での風力発電は難しい。そこで今注目されているのが浮体式の風力発電である。この技術が確立してコストパフォーマンスが上がれば日本のエネルギー事情は大きく改善する。現状は日本にこの技術はなく欧州の技術に頼っている。
実は日本は以前風力発電で世界で先行していたが、原子力発電の能力が明らかになってからは風力発電はコストパフォーマンスが悪く研究開発も進まなかった。しかし、その間に欧州や中国が技術を伸ばしていき、現在では、風力発電所の世界シェアの大半を占めている。その状況で三菱はオランダの電力会社エネコを買収して技術取得に力を入れ始めた。その成果として日本の再エネプロジェクトである秋田や千葉などの洋上風力発電事業の案件を破格な入札価格で落札した。
しかし、この案件の風力発電は海底に設置する着床式で浮体式ではないため今後の開発に期待したい。一方丸紅はスコットランドの浮体式洋上風力発電事業の案件を獲得して国内でも存在感を示している。これら各商社の投資が拡大して競争が激化すれば更なる技術向上が期待される。
(5)どうやって生き残る?
今後はさらなる脱炭素化が進むと予想される。つまり、天然ガスの使用量も徐々に削減されていって商社の稼ぎ柱が衰退していくことになる。しかし、商社は脱炭素によって事業を失うというネガティブ要素だけではなく、水素や風力発電などの新事業を行うチャンスを受け取ったとも考えることができる。
水素に関する技術は日本はトヨタの水素自動車などを筆頭に十分高水準である。しかし、現在はまだコストがかかり量産化はできないためそこの壁を乗り越えなければならない。一方の風力発電は欧州や中国に先を越されている。しかし、希望がまだ残っている。それは浮体式で技術を保有することである。この技術を確立することができれば東南アジアなど海外事情に売り出すことができ、日本は風力発電大国になれる。逆に他国に技術で負けてしまったら日本企業は販売代理店としてしか利益を得ることが出来なくなる。つまり、商社が生き残るためには今稼いでいるLNGなどの収益の大半を再エネの研究開発費に当てて海外の技術を学びながら(買収が一番早い)事業を徐々に転換していく必要があると考える。
参考資料
https://www.google.co.jp/amp/s/mainichi.jp/articles/20170217/k00/00m/020/082000c.amp
https://www.google.co.jp/amp/s/www.yomiuri.co.jp/economy/20210407-OYT1T50138/amp/
、https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68917830Y1A200C2MM0000/
https://newspicks.com/book/2247?invoker=np_urlshare_uid7505780&utm_medium=urlshare&utm_source=newspicks&utm_campaign=np_urlshare