
#067 「イエス」と言い続けること
旅の話の続き。
歩く途中で出会った強面の警官に会いに立ち寄ったタルタルという町。海岸に面した小さな町で、これといった観光スポットがあるわけではありません。しかし、旅を通して思い出深い町の一つになりました。その理由は、何だったのか。
タルタルに着いた次の日の朝、招かれるままに憲兵隊庁舎の食堂に朝ご飯を食べに行きました。
ここは憲兵隊の庁舎とはいえ、収監されている人たちは皆若者ばかりで、少年院のような印象でした。砂漠で会った強面警官も、エプロンをつけて金槌を片手に、囚人(?)の青年たちと敷地の中で小屋を作っていました。
強面警官は11人兄弟の長男で、子供のころから貧しく、10才の頃から15年近く大工の仕事をしていたということで、小屋を作るのはお手の物。
「囚人」ということで最初はビビッていたのですが、廊下ですれ違えば、笑いをとろうとお茶らけてみたり、下ネタで笑いを誘ってきたり、みんな気さくな青年ばかりでした。看守と囚人という関係ではなく、学校の先生と生徒のような雰囲気。何故捕まっているのか不思議なほどでした。
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朝ご飯をご馳走になり、庁舎の中を見学させてもらった後、親や友人にメールを打とうと、インターネット屋さんを探しに出ました。
初めに見つけた店に入ったのですがネットが繋がらず、そこの店の人と一緒に電話局に行き、そこでネットが使えるか聞いてもらいましたが、その時は使えず午後に改めて来るようにとのこと。
その時は引き返し庁舎に戻ると、憲兵隊の男性職員Aの自宅に招かれお昼ご飯を頂くことに。
食後は彼とその男友達のに連れられて、再びインターネット屋さん巡りに出ました。個人的にはそこまで逼迫していたわけではないのですが、「親に連絡をとる」ことは最優先事項と彼らは捉えられていて、インターネット屋さんだけでなく、パソコンのある学校に行ったり、知り合いの事務所のパソコンを使わせてもらいに行ったりと、あらゆる手段を探しましたが繋がるところは見つかりませんでした。
そして、途中から何故か彼の恋人とその友人も加わったところで少し目的が変ってきて、4人で楽しそうに町を回ったり、海岸を散策したりし始めました。後から振り返ってみると、彼らは、自分を出汁にして、好きな子とデートをしたかったようでした。恋愛にしたたかな二人組。
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その晩は強面警官に誘われて、夜9時からの憲兵隊チームのフットサルの試合を見に行きました。さすがサッカーが盛んな南米なだけあって、ボールさばきが上手く体のあたりも激しく迫力がありました。残念ながら、憲兵隊チームはボロ負け。
その日はそれで終わりかと思ったら、試合が終わってから男性職員Aの家に夕ご飯に招かれました。何かお返しをと思い、卵スープを作らせてもらったり、ギターを演奏したり。結局深夜0時を回ってから家族6人で食べ始め、朝の3時にようやくお開きになりました。男性職員Aは、ご飯を食べてすぐにコッソリ抜けて、隠れてベットで寝ていました。したたかなA。
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疲れていて眠かったとしても、誘われたことは「ハイか、イエスか、喜んで」とばかりに、お腹がいっぱいでもお茶を頂き続けました。ただ、断ることが忍びない、と思っていたのですが、結果としてその態度が次の誘いを呼び込み、つながりの輪が広がりました。
「イエス」と言い続けることが、この町を思い出深いものに変えたのだと思います。