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#058 ちょっとした有名人?

旅の話の続き。

この日いつものように歩いていると、道の途中で一人のおっちゃんがポツンと立っていました。周りには家も車も何もなく、ただ砂漠中に一本の道があるだけのところに、少し大きめのカバンを一つ持っているだけ。

近づいて話しかけると、
「アイスクリームはいらんかね」

えっ、と驚きつつも、アイスクリームという響きに心奪われ、頂くことにしました。

話を聞いていると、おっちゃんは、この先の街アントファガスタに住み、高速バスの乗客を相手にアイスクリームを売っていました。

チリ北部では旅客鉄道が整備されておらず、庶民の移動手段は長距離バスが主流で、いろいろなクラスの長距離バスが頻繁に走っています。そのおっちゃんは、バスに乗り込み乗客相手にアイスクリームを売り、ひととおり売り終わると途中でバスを降り、次のバスに乗り込み再び乗客相手にアイスクリームを売って回るというもの。

おっちゃんに出会ったときは、ちょうど次に乗り込むバスを待っているところでした。財布を出して支払おうとすると、お金はいらない、とのこと。そんな話をしていると、バスが見えてきたので、おっちゃんは手を挙げてバスに止めて、大きなカバンを持ってバスに乗り込んでいきました。長距離バスの中のアイスクリーム。結構需要はありそうです。


この長距離バスには、結構お世話になりました。長距離バスは同じルートを定期的に走っているので、歩いているところも常時モニタリングされていたのだと思います。手を挙げるでもなく、ただ歩いているだけなのに長距離バスが止まり、パンとジュースが渡されると、またすぐに出発していくということが何度もありました。長距離バスとしても、乗客サービスとしてパンとジュースを配るのですが、その余りもの処分先にもなっていたのでしょう。まさに、Win-Winの関係だったのかもしれません。

歩き始めて数日経つと、食料として持ち運んでいたパンにカビが生えることがたまにありました。そんな時、バスからの差し入れは何よりもありがたいものでした。


アントファガスタの街に近づくにつれて、歩いていることが知られてきたのか、ライトのパッシングやクラクションを鳴らして通り過ぎる車が増えてきました。長距離バスだけでなく、業務用のトラックや普通の乗用車からもあり、ちょっとした有名人になったような気分になりました。


人から認知されるには、物事を継続することも大事ですが、それだけではなく人の目にその姿を晒すことも大事かなと思います。

この時は、目立とうと思って歩いている訳ではなかったのですが、砂漠を歩いていると嫌でも目立っていたのでしょう。逆に考えると、目立とうと思わなくても、目立たざるを得ない環境で物事を継続していると、人から認知されざるを得なくなるのかもしれません。

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