#066 会いに行ってみよう
旅の話の続き。
アントファガスタを出て10日目の朝のこと、テントから出て外を見まわしてみると、道路の先にある谷に雲が一面に広がっていました。雲の上に立つと何故か気分が高まり嬉くなるもので、高揚する気分のままテントを手早くたたみ早々に歩き始めました。
当初は、アントファガスタからコピアポまでの500km超の国道5号線を寄り道せずに真っすぐ歩く予定でした。ところが、途中に出会ったタルタルという町に住む警官に会いに行ってみようと思いたち、タルタルに立ち寄ることにしました。
とはいえ、国道5号線からタルタルの町まで20km強。「立ち寄る」とはいえ、片道丸1日かかります。それでも、タルタルに向かうことに迷いはありませんでした。
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国道5号線から道を外れたタルタルまでの道は、ずっと下り坂でした。下り坂は歩くには楽なのですが、「この坂をまた登るのか」と思うと手放しでは喜べないところがありました。
また、この下り坂の周りには植物がポツポツと生えていました。朝見下ろしていた雲の水分のお陰で、植物が生育できているのでしょう。これまで、植物も何もない殺風景な景色ばかりだったこともあり、わずかな植物があるだけで嬉しくなりました。
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夕方少し早い時間にタルタルの町に到着。早速、住所の書かれた紙を手掛かりに警官に会いに行くと、そこは憲兵隊の庁舎でした。厳格な雰囲気が醸し出される中、恐る恐る庁舎の中に入っていくと、そのまま客間にとおされ暫く待っていると、沙漠で出会った強面の警官ブルゴスさんが出てきて無事再会できました。
厳格なところかと思いきや、気さくな人ばかり。直ぐに庁舎に備え付けのシャワー室でシャワーを浴びさせてもらい、ご飯をご馳走になりました。
庁舎で出されたご飯。実は、庁舎に捕まっている受刑者の刑務作業で作られたもの。実際に料理を担当した受刑者を紹介されたのですが、気の弱そうな若者でした。受刑者といっても若者ばかりで、少年院のようでした。
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その日の夜は、憲兵隊の宿舎が空いている、ということで、庁舎のすぐ近くの宿舎に泊まらせてもらうことになりました。
思いがけない出会いから、辿り着いた憲兵隊の宿舎。
でも、「会いに行ってみよう」という思いがなければ、辿り着けなかった憲兵隊の宿舎。
何事も「会いに行ってみよう」と思うことから始まるものなのでしょう。