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#064 やさしさの輪を途切らせない

旅の話の続き。

アントファガスタからコピアポまでの区間は食料の買い出しをできる町がないので、多めの水と多めの食料を携えて歩き始めたのですが、このことが逆効果になりました。

砂漠の中を走る国道沿いに、たまにレストランがあります。レストランと行っても家がポツンと一軒あるだけ。当時インターネットはなく、唯一の情報源であった観光案内所で入手する地図には載っていないので、事前にレストランがどこにあるかは分かりません。食料節約のためにもレストランがあれば入るようにしていました。

ある日昼前にレストランを見つけたので、入ると準備中とのこと。料理ができるまで待っていると、店のおばちゃんが荷物のギターを見つけ、「ギターで何か弾いてくれ」といきなりリクエスト。人前で弾き語りなどしないのですが、このときばかりは日本の唄を歌ってみました。
沖縄民謡の「花」。

川は流れて どこどこ行くの
人も流れて どこどこ行くの

唄はなかなか良かったようで、意外と喜んでもらえました。昼ごはんを頂き出発しようとすると、ジュース2Lにオレンジの差し入れがありました。荷物は減るどころか増えるばかり。


別の日には、朝早い時間帯に歩いていると道端にワゴン車が止まっていました。近づいていみると、警官が二人と若いあんちゃんが二人朝御飯を食べていました。よく見ると若いあんちゃんの手首には手錠が。そのワゴン車は警察の護送車だったのです。とはいえ、若いあんちゃん二人は優しそうな顔をしていました。そして、話をしながら、ハムを挟んだパンとホットコーヒーを頂きました。

「これからアントファガスタに向かい、また戻ってきてこの先のタルタルという町に帰る。タルタルに寄るときには、この住所に来るように」と強面の警官から住所を書いた紙をもらいました。

その時は別れて歩き続けていると、約束通り警察のワゴン車が戻ってきて、再会しました。その時は、パンにコーラ、砂糖にお茶、トイレットペーパーと、その場にあった渡せそうなものと思われるもの一式をまとめてもらいました。荷物は減るどころか増えるばかり。

お礼にと思い、ギターを取り出してブルーハーツの「青空」を歌ったのですが、今回の反応はイマイチ。慣れないことをする場合には、場を選ぶ必要があるようです。


今回の旅路では、荷物は減るどころか増えるばかり。やさしさを溜め込むことなく、やさしさの輪を途切らせることなく、積極的に何かを返していかないと、と思わされました。

やさしさの輪を途切れさせることなく紡いでいくには、何ができるか。
今でも忘れてはいけない問いです。

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