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#071 Authentic(本物)な経験

旅の話の続き。

歩き始めて51日目。ついにゴールの首都サンチアゴまで1000kmの地点を通過しました。出発地の北端の町アリカを出たときの道路標識が2070kmだったので1070kmを踏破したものの、まだまだ折り返し地点。ただ、残りの距離が3桁になったことに無性に嬉しくなりました。


季節は5月。朝起きると霧がかかることが多くなり、日中も曇りの日が徐々に増えてきました。曇りの日は日差しが遮られ少し暗いものの、歩くには気持ちのいいものでした。

そんなある朝、黙々と歩き一軒の家を通り過ぎようかとしたとき、その家のおばあちゃんに呼び止められて、パンとコーヒーをご馳走になりました。そのまま話していると「ここに泊まっていけば」という話の流れになり、一泊だけ泊まることに。ここでは、チリのある家族のある一日を見ることができました。


この家に住んでいるのは、おばあちゃんとその息子が二人。おばあちゃんは貝のアクセサリー作り、長男はハーブティー作り、次男は海で貝を採り、それらを売って生計を立てているようでした。

その日の午前中、次男は貝を売りに町に出て家におらず、おばあちゃんは貝のアクセサリー作り、長男は読書と、ゆったりとした時間が流れます。昼ご飯は、ポロートと呼ばれる豆とパスタの入った魚介スープ。

午後になり次男が帰ってくると海岸に出て、潮が引いている夕方までの間にカラコレスというカタツムリみたいな貝の漁が始まります。ウェットスーツに着替えた次男が手で貝を採り始め、4時間ほどで大きめの段ボール箱2箱分くらいの貝を採ってきました。

夜は、貝のパスタ。カラコレスの殻をとり、内臓を取り除いて洗い、ネットに入れて棒で叩く。そして一口大に切り、ニンニクと一緒に炒め、パスタを入れ、最後にレモン汁を絞って完成。

ドラム缶に溜めた水は、飲料水や料理、洗い物に使用し、残った水は植物へ。海水を含んだものは、庭に散水と、生活用水をきちんと使い分けていました。

電気は通っていないので、夜の明かりはろうそくか軽油ランプ。木材や石炭を燃やして、暖をとっていました。

夜寝るときには、洗面器を渡されました。何のためかと思いきや、夜小便がしたくなった時に、この中にするとか。さすがに抵抗がありこの時は、外に出て用を足すようにしました。


昨日のNHKのクローズアップ現代で、盛岡を訪れる外国人観光客が増えているというテーマが取り上げられ、この中で、

日常、暮らし、うそのない文化といいますか、Authentic(本物)を経験したい、人が多くなっています。

NHKクローズアップ現代「なぜ世界が注目? 外国人観光客が“Morioka”に求めるものとは」

というコメントがありました。

今振り返ると、チリの家族の何気ない日常を経験することで、その中にある「Authentic(本物)」を感じていたのだと思います。

沙漠を歩く前、世界遺産を見て回っていたのですが、遺跡自体は素晴らしいものの、どこか何か物足りなさを感じていました。当時の自分は、遺跡観光そのものよりも、「日常、暮らし、うそのない文化」という違うものを求めていたので物足りなさを感じていたのかもしれません。

この時は、自然に寄り添って生活すること、時間をゆったりと贅沢に使うこと、ということがここの人たちの文化なのだと感じました。

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