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『怪物』感想

坂元裕二さん脚本/是枝裕和監督作品『怪物』

この記事は2023年ロードショーの映画『怪物』に関する記事です。
以下ネタバレも含み、感想を記載しています
まだ映画をご覧になっていない方はご注意ください


鑑賞の経緯

映画の存在を知ったのは、公開終了後しばらくたってから。
アマゾンプライムか何かでレンタルの文字を見つけ、気になったのですが、しばらく手を付けていませんでした。

その後、2025年の年始に時間があったためアマゾンプライムにて鑑賞しました。視聴時のインパクトが大きく、何度も見ながら反芻しています。


それぞれの「事情」

この映画は三部作になっていて、ある時間軸の出来事を主に三人の登場人物から切り取る構成になっています。

第一幕に描かれる母親の不器用な愛情、第二部に描かれる教師の試行錯誤と気づき、そして第三部に描かれる男の子の情愛と葛藤。
鑑賞を進める中で、ちょっと前の印象が覆されます。
目線が違うとこんなに事実の見え方が違うんだ、ということに気づかされました。

映画の構成だけで捉えても本当に面白い映画です。
鑑賞前の自分に戻って、もう一回あの衝撃を味わいたいほどです。


第三部の衝撃

さて、ここからはもっと踏み込んだ感想。

この映画は人によって違う「怪物」の妙を表した作品で、各シーンに優劣や重さに差はないものなんだと思います。
第三部で真の事情が明かされていくという構成。
でも、第一部、第二部、単体で見たとしても、それぞれの登場人物が感じる「怪物」がちゃんと描かれています。
だから、心に刺さるものがそれぞれに多くあります。

でも、やっぱり第三部が『怪物』のメインだと思ってしまいます。
それは、主人公の男の子たち-麦野湊くんと、星川依里くんのやりとりが深く心に刺さったからです。

カンヌ映画祭でクィア・パルム賞を受賞したが故に、「同性愛」をテーマとしたの映画だと思われがちだと思うけれど、どうなんでしょう。
私は、是枝監督は「同性愛」を匂わせながらも、それがメインテーマでは決してない。
結局は人と人のつながりの喜びと難しさを描いたんだと感じています。

誰かを好きであること
でも、それを確かめるすべがないこと
だから、言葉や態度でしか計ることができないこと
確かめようと動くことに不安はつきものであること
心をさらけ出すことはとても勇気のいること
その関係を快く思わない人がいるということ
そして、その葛藤は押さえきれるものではないこと

思春期特有の性に対する芽生えも相まって、主人公の二人の心の変化は身につまされます。
その中で、周りが死を連想してしまうほど悩んでいたんでしょう。
登場人物みんなのしんどさに、胸が痛みます。
特に湊くん、依里くんの二人のセリフ、表情、動きにもう…

ラストシーンで、二人は光の中かけていきます。
そこには解放と世の祝福の気持ちがあふれています。
こんなセリフで片づけてはいけないと思うのですが「いろいろあったけれど本当に良かった」と思いました。

ここから先もいろんな悩みもあるでしょう。
でも、今この二人は間違いなく幸せであること。
それが一番大事だ、と感じさせてくれました。

改めて映画を見返すと、二人の悩みを開放するきっかけはたくさんありました。
音楽室でのシーン
湊くんが暴れるシーン
保利先生への相談を促すシーン
転校を告白するシーン
とっくみあうシーン
夜の基地のシーン
依里くんのお家でのシーン
それぞれに「ここでこう動いていたら」「もっといいやり方があるのに」とやきもきしてしまいました

でも、全部の場面がやっぱり全部必要。
どれが無くても、最後のシーンにはつながらないのでは。
すれ違いも含めてとっても人間臭いし、そこが大事なんだと思います。

うまくいかない過去があるからこそ、今があって、未来につながっていく
そして、今を生きた二人のひたむきさが、最後のシーンにつながっていったのではないでしょうか。

鑑賞後の気持ちとしては

今、自分が抱えている悩みも含めて
一生懸命生きていこう
あぁ、人生っていいものだな

そんな大きな、そして陳腐な感想になってしまいましたが
とにかく、この『怪物』という映画に出会えてよかったです。

この映画に携わった皆さんに、大きな声でお礼が言いたい気持ちです。
魂が救われた思いです
本当にありがとうございました。


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