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うらまない人

1996年10月31日(木)
工事中のおかしな建物を上って屋上に出たり、配管を下りたりして裏道へ出た。
青ざめた、薄紫色の子どものももに、犬がしっかとかみついていた。犬を追っ払ってやるのがいいと思ったが、自分があんなふうにかみつかれるのはかなわない、と考え直した。
気がつくと犬は消えていた。
少年を家へ送ることにした。抱き上げたわたしの手に血はつかなかった。
わたしに罪悪感はなかった。
少年は、自分にけがを負わせた犬と、ただ見ていたわたしを、うらんでいなかった。

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