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お好きでしょ、こんなのも……!?
お嫌いですか、ロボットは?#80 祝日のない6月。週末はラーメンか?
――いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。
――おや? 今夜もお疲れのようですね。例の事務仕事は片付きました?
いや、そうじゃないんだよマスター。営業のマミちゃんのおかげで、というかほぼ丸投げ、いやお任せしたらえらい早く済んじゃって。あとは来月の頭にちょちょいとやれば完璧なはず、はずなんだってさ、知らんけど。マミちゃんのおかげで今週は展示会にカオ出したりして、久々に好きにやらせてもらったよ。6月は祝日がないし、気温が急に高くなって身体がついていかなくて疲れるんだけど、今週はホント、充実した一週間だったよぉ。
――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「ツナとごま油の無限ゴーヤ」かぁ。へぇ~いいねぇ。暑い暑いと思ってたら、もうゴーヤの季節なんだね。ゴーヤのほろ苦さとシャキシャキした食感って、どうしてこの夏の蒸し暑さにマッチするのかね。ビールでも焼酎でも、泡盛だって、もちろん日本酒にも合うんだよねぇ。そうそう、話は全然関係ないんだけど、ホテルや飲食店の人手不足って、もう限界に近いって話らしいね。この前、横浜の外れのビジネスホテルに泊まったら、夜の7時過ぎでも、ドアが開けっぱなしでまだ片付けられてない部屋がいくつかあってさ。なんかのついでにスタッフの人に事情を聞いたら渋い顔してさ。人手不足で掃除もベッドメーキングも間に合わないから、部屋は空いてるのに「満室」扱いにせざるを得ないって、支配人が頭抱えてるんだってさ。道理でネットで予約しようと思っても、部屋が空いてないはずだよね。朝食会場でも、たしかに外国人の比率が高くなったけど、そんなに混んでるってわけでもないんだけどね。そうそう、この前行った、北陸にある国道沿いのチェーン店のラーメン屋でも、せっせとロボットが働いてたもんなぁ……。
マスターはさぁ、チェーン店のラーメン屋って行く? オレはラーメンは嫌いじゃないんだけど、最近のラーメン屋はチェーン店かどうかに関わらず、どこも油ぎってて味が濃いじゃない。コップの水を何杯飲んでも口の中がさっぱりしないし、それでいて結構な値段を取るんだよね。最近は自分から好き好んでは店に行かなくなった。クルマでの出張や外回りの時に、駐車場にクルマを停められて、注文して出てくるまでの時間が読めるラーメン屋に、仕方なく行くことはある。
半年ぐらい前かなぁ、あの時もそうだった。米原ジャンクションから北陸自動車道に入って福井ICの次、丸岡ICで降りて国道8号をしばらく走ると、ラーメンチェーンの「一番ラーメン」の看板が目に入った。昼の11時を少し回ったところで、今昼めしを食っておけば店も混んでなくていいや、ってな感じでクルマを駐車場に停めて店に入った。
一番ラーメンって、ラーメンの種類も多いし、チャーハンやギョーザのセットもあるし、何よりスープの味が濃くなくてスッキリした味だから、外回りの時は割と重宝してたんだよね。チャ-ハンなんて、かれこれもう10年近く前から、専用の機械で作る潔(いさぎよ)さが、オレは気に入っていた。こだわりだの職人の技とか言っても、所詮高級中華の店には勝てないんだから。店で調理するのがバイトでも新人でも、一番ラーメンが認めた同じ味を出せるってのは、それはそれで素晴らしいとオレは思ってるからね。
それにさ、最近は注文や会計のシステムなんかが自動化されて、タッチパネル式になってきたから、たまにこういう店にも行かないと、時代遅れになっちゃうしね。
その店でも、テーブル上の小型端末での注文だった。タッチパネルであれこれと注文して「確認」をタッチすると、「注文完了」の表示が出た。しばらく待ってると、何と回転灯を光らせながら高さ1.5mぐらいかな、配膳ロボットがテーブルの横にやってきて、胸元にある扉を開けろとしゃべりだすんだ。
胸元の扉を開けると、中は3段に分かれていて、各段に料理を載せるトレーが2枚入る大きさになってた。一応オレも本職だから、扉の中の構造や、ロボットの構造なんかを想像しながら、思わず「へぇー、やるなぁ」と感心した。
まず、ラーメンのスープがこぼれないよう、動きや向きを変える時の動きや減速のなめらかさ。通路で客とすれ違う時のよけ方や減速、テーブル横の立ち位置など、「よく考えられてるなぁ」と思った。
ラーメンはスープや具材が入った丼がどうしても重くなるから、ハンバーガーやファミリーレストランの料理より、配膳係の負担が大きい。客のいる中でひっくり返そうものなら、「失礼しました!」と言って大急ぎで片付けて掃除もしなくちゃならない。スープが客にかかりでもしたら、それこそ大変なことになる。飲食業界で人手の確保が難しいなかで、ロボットを使った自動化や省人化は当然の流れ。汁物のラーメンを運ぶ動きを覚えさせ、調整を重ねるのは相当苦労したはずだ。
何よりさ、親に連れられた子どもたちが本職のオレと同じように、ロボットの動きをじっくり眺めて喜んでるんだ。オトナはよく「子どもだましだ」なんて言うけど、子どもは遠慮がないから、オトナよりもだますのは難しい。動くロボットに付いて行き、真後ろに立ってじーっと動きを注視してる。
食べ終わったら、テーブル上の2次元コードが印刷されたプレートをレジに持っていくだけ。2次元コードを読み取れば、客の注文内容が分かり、支払額が表示される仕組みなんだ。
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