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お好きでしょ、こんなのも……!?

お嫌いですか、ロボットは?#78 入れたら入れたで忙しくなる。終わらない自動化への道

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。

――おや? 今夜もお疲れのようですね。今日はニットタイですか? 夏の装いも、すっかり小慣れた感じですね。
 いや、そうじゃないんだよマスター。いやね、先週末にタンスの中身を衣替えしたんで、ようやく春夏もののスーツがそろったところなんだよ。若いころなら「ノーネクタイでいいよ」と言われれば喜んで従ったんだけど、おじさんになるとノータイじゃ、どこか締まらなくてさぁ。結局はネクタイを締めることになるんだよ。ま、締めたところで若者みたいなさわやかさが強調されるわけでもなく、ただ「締めてます」ってだけなんだけどねぇ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「ズッキーニとカボチャのアンチョビ炒め」かぁ。なんだか毎週毎週、夏がぐいぐい迫ってくる感じだね。ついこの前まで、ツクシだの春だのって言ってたのに。早いねぇ。毎日暑いよねぇ、何とかならんかねぇホント。余りにも暑くて、これまでなら営業の途中の休憩でコンビニに寄るとお茶のペットボトルを買ってたけど、今はお茶は小さいサイズにしてアイスクリームに手が伸びちゃうんだよね。まだ5月なのに。まだ暑さに身体が慣れていないせいか、寝ても疲れが取れないんだよなぁ。そうそう、疲れで思い出したけど、ロボットを入れたら逆に忙しくなっちゃって「疲れちゃったよ」なんてボヤいてるも多いんだよなぁ……。


 鳥取に株式会社カタヤマって会社があってね。そもそも鳥取で製造業って、イメージできない人が多いらしいんだけど、そこそこ面白い会社もあるんだよね。まぁ島根と並んで地味な県だし、地図で鳥取と島根の場所を正確に言える人って少ないだろうし、そもそも関心がない人も多いだろうし。まぁ仕方がないよね。

 で、カタヤマは1970年代の設立以来、ずっと家電用の金型を作ってきた会社なんだけど、2000年前後に社長を継いだ片山勝社長が、国内で家電製品の製造が少なくなったのを機に、家電から自動車分野へと業容をシフトさせていったんだ。

 まぁ、家電部品用の簡単な金型じゃあ競合も多いし技術も進歩しないから、難しくて新規で参入しにくい業種を探したらしい。薄利多売を続けるよりも、実入りがいい、できれば価格決定権を取れるぐらいの難しい技術の金型を追い求めたんだね。今は8、9割が自動車向けで、たまに昔のツテを通じて頼まれる家電の試作部品があるぐらいらしい。

 順送金型は一つの金型内に複数の工程を設け、1ショットごとに次の工程に自動で材料を送りながら次々と加工する手法で、米国で先行して日本でも広まった。2000年に先代社長が1,000トンプレスを導入して以降、本格的に順送金型の仕事を増やしていった。

 片山社長が目を付けたのが、シートの中に納まるシートフレーム部品用の金型だった。順送金型というのは、幅が2メートルぐらいの一つの金型内に複数の工程を配置して、ガチャンと1ショットするごとに次の工程に自動で材料を送りながら、少しづつ加工していく。一つの金型で20工程とか30工程ぐらい、つまり20回から30回ぐらいガチャンというと部品が仕上がる仕組みの金型なんだ。

 部品の大きさにもよるけど、超ハイテン材は、硬くて元の形に戻ろうとする力が強いから、1,000トンクラスの大きなプレス機が必要なんだ。カタヤマも、この1,000トンプレス機の導入で、一気に順送の仕事が増えた。

 順送金型には、材料を切断したり曲げたりする小さな部品がたくさん組み込まれている。金型1台で350から650個ぐらい部品が付けてあり、ものによっては1,000個ぐらいになることもある。既存設備は大型用で小物の加工に向かず、新システムの導入を検討した。

 そこで、小物の金型部品の加工用に5軸制御の複合加工機や、横型マシニングセンタ、そしてお待たせ、多関節ロボットで構成するロボットセル生産システムを導入したんだ。5億円ぐらいかけてね。将来を見据えて、超精密加工にも対応できるよう、作業場を恒温環境に整えたんだ。これにも結構な金をかけたんだよ。

 数値制御(NC)のデータは社員だけではままならないから、一部は海外のメーカーに作成を依頼しながらも、徐々に内省できるようにしていった。ロボットが部材をセットした棚から各工作機械に供給して、加工後に排出して棚に収めるシステムを何とか稼働させたんだ。それが10年、いやもうちょっと前だっけなぁ。

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