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ロボットなんて大っ嫌い!

お嫌いですか、ロボットは?#19 老舗ののれん(上)

――いらっしゃいませ。
マスター元気?いやあ、今週も疲れたわ。

――おや? 今夜はプリント柄のネクタイですか。白いシャツに映えますね。
 そうなんだよ、昨日から新年度だからね。スーツは無理だけど、シャツとネクタイはおろし立て。昨年度はコロナで大変だったから、せいぜい気分だけでも一新、切り替えたくてね。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、今夜のおすすめは「老舗ソーセージの盛り合わせ」か。ほほう、しゃれてるねぇ。

――今夜は正真正銘のおすすめ。ドイツの老舗から空輸で取り寄せたんです。先ほどつまんだら、いい味でしたよ。
 ドイツの老舗ねぇ。老舗と言えば思い出すよ。300年続く老舗百貨店の案件を。これこそ、要するにのれんの重みだったよなぁ……………。


 名古屋の繁華街、栄(さかえ)に300年続く老舗百貨店「魁(さきがけ)屋」がある。名古屋にも、三越や高島屋といった全国に名が知れた高級百貨店の名古屋店がある。しかし、生粋の名古屋人、とりわけ名古屋に本店を置く歴史ある地元企業には、魁屋こそが百貨店であって、その他の老舗百貨店はあくまでも「魁屋以外」でしかない。

 同じ手土産なら中身は同じでも、魁屋の包装紙でくるまれたものこそが最上の手土産。三越や高島屋、ましてや他の百貨店の包装紙でくるまれた土産など、しょせん「魁屋以外の物」。「魁屋の包装紙」こそが相手への敬意であって心遣い。中身は二の次。気持ちなのだ。

 名古屋市北区の黒川沿いに、魁屋の子会社「魁ロジスティクス」の物流センターがある。かつては魁屋物流と名乗り、主に魁屋の店頭で受注した商品や贈答品の配送、「外商」と呼ぶ、一部の金持ちやVIP客だけを担当する部門で受注した商品の宅配などを担ってきた。

 その魁ロジから問い合わせがあったのは、5年ほど前のこと。百貨店同士が生き残りをかけた経営統合でホールディング(HD)会社を作り、統合された各百貨店は、HDを形成する1店舗になった。老舗の魁屋も、組織図上では傘下の1店舗。HDから経営の合理化と業務の効率化を迫られ、物流部門がそのやり玉に挙がった。
 
 HDの言い分はこうだ。世には大手から個人経営まで、星の数ほど物流会社がある。「そもそも自前で、魁屋の物流を全て自前の子会社でこなす必要があるのか」と。高給取り、魁屋の給与体系で物流業務を維持すると、どうしても割高になる。保管なら倉庫会社、配送なら宅配業者などの「専業に任せるべきでは?」との言い分だ。

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