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ロボットなんて大っ嫌い!

お嫌いですか、ロボットは?#44 一見さんお断り。話題作りだけじゃねぇ

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。
 
――お疲れとのことですが、そうは見えませんけど……。
 いやね、最近は日の出が早くなって、逆に日の入りが遅くなったでしょ。ウチのマンションは窓が東向きだから、朝食を食べてるころにちょうど日が昇ってまぶしいぐらいだし、夕方も遅くまで明るくなってきたでしょ。ここ数日、何となく気分がソワソワするなと思ってたら、明日は「啓蟄(けいちつ)」だって言うじゃない。「地中で冬眠してた虫が騒ぎ出すぐらいだからヒトもそうだわな」と妙に納得したんだ。それで気を良くして例のごとく、年度末に向けてパワー全開で営業してたら疲れちゃってさぁ。日没後は目がしょぼしょぼして見えやしないよ。
 
――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「カリっとピリッとごぼう揚げ!」かぁ。揚げて七味か何かかけてんの? 先週も言ったけど、マスターのネーミングも凝ってきたねぇ。それ貰うわ。いやぁ、ウクライナがえらい事になってるねぇ。先週末に同級生だった自衛隊にいる知り合いと電話してたんだけど。彼はテレビのニュースで流れる戦車の隊列や砲撃のシーンとか、避難民の姿にはあまり興味がなくて、そうした映像の合間に流れるウクライナに向かう鉄道の貨車とか、国境に向かうトラックの車列の映像が気になるんだってさ。一編成あたりの貨車やコンテナの数とか、車列の台数が気になるって。「素人は『戦略』や『戦術』を語り、軍人は『兵站(ロジスティクス)』を語る」んだって。「コメンテーターが兵器や作戦を熱く語るのを横目に、鼻で笑ってる」ってさ。そう聞いて思い出したよ。高知県の南風ロジネットの案件を。運送会社のロジスティクス案件なのに、当の会社がそのロジを分かってなかったよなぁ……………。
 
 
 

 高知って、オレ大好きでさぁ。クルマでも電車でも、飛行機でも行ったけど、何回行ってもいいトコなんだ。あったかいし、食いもんはうまいしさぁ。今はすっかり立派な駅舎に変わったけど、むかしはJRの駅舎も駅前の木々にも風情があってねぇ。いかにも「南国」って感じだったんだ。駅前の「土佐」って居酒屋は、まだあるのかなぁ。
 
 出張で行った夜はその土佐で、カツオのタタキとクジラを腹いっぱい食べてさぁ。翌日クルマで宿毛方面に向かったんだけど、道中で「カツオ」ののぼりを見ただけで「ウッ!」とくるぐらい堪能したんだ。ニンニクも大量に入ってたけど、かなりにおってただろうなぁ。
 
 高知って面白いところで、太平洋に面して、三方を高く険しい山々に囲まれているからなのか、高知の人は四国にあって四国の人間とは思わないというか、日本人とも思っていないような感じで独自性が強いんだ。5年ほど前だったけなぁ、高知市内に本社がある南風ロジネットに呼ばれて行ったんだ。物流倉庫の自動化案件だった。物流の案件もそこそここなし始めていたから、他の運送会社と比べてちょっとした違和感を持った。
 
 南風ロジだけでなく、高知市内を走るトラックやダンプカーが、他県で見る車両とは少し仕様が違って独特なんだ。全国規模の大手や中堅企業のトラックはともかく、タイヤの大きさとか、荷台の形や高さとか。とにかく、他県で見る仕様とはどこか違う独特な車両が街中を走っているんだ。
 
 南風ロジ社長の野々村晃は、そうした高知の独自性を嫌ってたのかなぁ。とにかく、ローカル色を必死に消そう、薄めようとしていた。けれど、当の本人は高知弁を隠さず「~じゃき」「~しちゅうき」と、丸出しでしゃべる人だったんだけどね。
 
 倉庫に自動化に向けた機器を導入して物流センターに改装して収益の増加を計るってのが野々村社長の考えのようなんだけど、どうも違和感があってねぇ。南風ロジは中堅の特別積み合わせ貨物業者で日用雑貨はもちろんだけど、高知の土地柄か生鮮野菜や建設資材まで運ぶんだ。建設資材と言ったって、グループに土木建設会社があるから、砂や砂利、袋入りのコンクリートはもちろん、路肩に埋設するU字型の側溝や歩道に敷いたりするコンクリートブロックまで運ぶんだ。
 
 そこでオレは考えて「野々村社長、これは日用雑貨と建設資材を分けた方がいいんじゃない」と言ったんだ。段ボールケースに入った日用雑貨は、昇降式のエレベーターや自動ラックを入れて、合間にロボットを入れて作業をさせても割と親和性が高い。もちろん、品物の特性に応じてロボットの可搬質量も検討するけど、割とそのへんは何とかなるもんなんだ。
 
 問題は建設資材でさ。袋物のコンクリートなら、吸着式のロボットハンドを付けて、カメラで袋物の重心をおおよそ割り出して運べるんだけど、U字溝やコンクリートブロックとなるとねぇ。1つの重さが20kg以上あるし、重ね置く時にゆっくり降ろさないとブロックの角が削れてしまうし、置いた後に位置を調整しようとすると底辺が削れてしまう。
 
 品物の上げ下ろしのところで動作速度をめちゃくちゃ遅くしなきゃならないから、ロボット導入のメリットがあまり発揮できないんだ。夕方までにロボットの前に雑に並べておいて、夜のうちにラックに片付ければいいというのなら分からないでもないけど。
 
 そもそも1つが20kgを超えるようなものをいくつも収納できる自動ラックとなるとねぇ……、搬送するロボットを含めて、超巨大な施設になっちゃうんだ。とても今ある倉庫の改築、改装のレベルじゃ収まり切らないんだ。そもそも古い建物じゃ、床の耐荷重量だってそんなに大きくないしね。それでも野々村社長は「やりたい」って言い張るんだ。
 
 で、駅前の土佐さ。高知の定宿の近くだし、そこで晩飯を食うと言ったら野々村社長も「今夜はあいちょるけに(空いているから)俺も」って言う。で、行ったさぁ一緒に。
 
 ま、高知の人だから、酔えば酔うほどに話は大きくなる。関西と関東、九州の一部までしか拠点や路線網はないのに「俺は全国、いや世界に打って出る!」と言い出す始末さ。でも、最後にポソリとこう漏らしたんだ。
 
 「ウチは本州への展開が遅れたからなぁ。本四架橋がそろった時にはバブル後の最悪の時期だったし……」
 
 先代の親父から社長を譲られた時には、本州と四国を結ぶ、瀬戸内海を渡る3本の橋が開通し、全国の大手企業がこぞって四国に本格進出した。むかしはフェリーでしか瀬戸内海を渡れなかったんだ。
 
 大手の知名度と共に資本力をバックに安値の運賃を提示された荷主は、簡単に大手に流れて行った。その後、運賃を値上げされて南風ロジに戻った荷主もいたが、多くはそのまま大手に残った。倉庫の自動化案件は、どうもロボット導入ありきで、話題性を狙ったものだったようだ。
 
  「無理にロボットを入れて話題性を狙っても、話題はそう長くは続きませんよ。すぐに大手が別の話題を振りまきます。本業で地道に信用を重ねて。できる自動化から無理なく始めましょう。私も策を練りますから」
 
 あれから日用雑貨と生鮮食品だけを切り離して、ドライ(常温)貨物と定温貨物の物流センターを稼働させた。扱える商品幅が広がったことで、新規の荷主も獲得できたらしい。建設資材だけはその後も残ったままだけど。ロボットや機器で新製品が発売されるたびに、オレはいつも「何か南風ロジで使えるものはないか?」と探しているよ。
 
 
 
――たしかに、一瞬の話題性を狙うのも分かる気がします。そういった意味では、たにがわさんが扱うロボットなんかは、時流に合って話題を提供しやすいんでしょうねぇ。ウチみたいな古いバーでもときどき、テレビ局やタウン誌とかが興味を示してやって来ますけど、全部断っています。一瞬だけ一見客が増えたところで、ウチを大切にしてくれる常連客が離れたら意味がありませんから。それにウチは、これでもメンバーズ(会員)制で、一見さんはお断りですからねぇ。
 
 
■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。(2022年3月4日(金)にウェブマガジン『ロボットダイジェスト』に掲載されたものです)本家の掲載『お嫌いですか、ロボットは?』がなぜか読めなくなり、問い合わせが多かったので、一時的にこちらで掲載します。本家での掲載が復活したら、こちらでの掲載は破棄します。悪しからず。

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