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絵描きが無償で町内会の子供神輿に12枚のA2サイズ絵を描いて苦しむ話

町内会の子供神輿を作ったのだが、これがもう本当に大変だった。

家族の不登校問題を抱えたまま進学進級があって、状況が落ち着かないうちに春のお祭りに間に合わせなければいけなかったことで、作業時間が非常にタイトだったこともあるが、一番の問題点は「絵に金を払う」価値観が、この町内会(自治会)に無いことだった。

終始「僕としてはこれくらいはお金を出してもらわないと」と「え、そんなものにそんなにお金を使うってどういうこと?」との戦いだった。

いや、戦うというか、自治会に絵を尊重する価値観の人がほとんどいないため「このクッソ古くせえ御神輿を子供に担がせる残酷をどうにかしたい」と思ったら、手弁当でやるしかないのだ。「材料費くらいは出してあげるよ」と言ってるけど「1万円もかかるの!?」という感じ。「そこらへんの紙に、そこらへんの絵の具で、ちゃちゃっと描く」以上の感覚がない。常識が違いすぎる。このギャップで、終始「僕は大事にされていないし、僕の描く絵に何の価値も評価もない」というのが突きつけられるのがツラい。

あと、御神輿といっても二本の天秤棒の上に立方体の木枠が乗っかっていて、そこに絵を貼り付けたものだ。これを作る感覚が初めてで、かなり遠回りした。完成してみると、もっとお金を使わなくても出来たと思う。しかし、そういう経験値をもった人間を雇ったらもっとかかるだろう色々!! ・・・とも思うが、訴えたところで、それが分かる人間がこの町内にはいないのだ。

作り方を描いておこう。まず以前の木枠に貼ってある絵を全部はがす。旧作は、糊で模造紙をはりつけ、そこに絵の具で絵を描いた感じのもの。素人感がすごい。ポスターカラーか不透明水彩絵の具で描いてあって、全体に色が重く「わっしょい!」という感じにならない。そこで今回は、透明水彩を使おうと思う。

木枠がだいたいA2弱くらいのサイズなので、ダイソーのA3サイズ「貼れるボード」を2枚使い、A2サイズの絵を描く。紙がスチロールの板に貼ってあるので、透明水彩でも食いつきがよい。主線は油性マジック、色はその上に透明水彩だ。耐水性を考えると、ポスターカラーや、アクリル絵の具がいいのだが、描き慣れていないし、何より明るい感じにならない。

しかし水彩絵の具は耐候性が低いので、ニスのスプレー(とても高い)を塗布して皮膜を作る。ただ、これで油性マジックが溶けるので、かならず平らにして使わなければいけない。

実は、これを知らずに立体に組み上げてからニススプレーを施したところ、溶けた黒マジックが下に垂れてきて、ピカチュウの黒い瞳から、ドス黒い涙がしたたり落ちる感じになって絵が台無しになりそうだった。(一部ダメだったので、そこはアクリル絵の具かなんかで修正せねばならない。しかし、どうせ絵を見る目のある人間などいない。ここにはいないのだ。なら、このまま放置でもいい気がする。いまの興奮状態が醒めて「やっぱりダメだ、絵描きとして見ていられない!」となったら直そう・・・。頼むぞ、落ち着いたあとの自分)

作業スペースが家の中に十分なかったので、御神輿にボードを貼って白い四角柱を作っておき、そこに、家のテーブルで空いた時間にちょこちょこ描いた貼れるボードの絵を切り出して貼り付ける式にした。これでないと時間が取れなかったのだ。しかし、安いボードなので、これが反ってる。すると貼り付けても、自然に剥がれてしまうのだ。

最初からA2のボードに絵を直接描いて、それをタッカーで木枠に打ち付ければよかったのだ。うう、僕はなんて無駄なことを・・・。時間も、そして予算としても2400円ほどの無駄使い。町内会の人の「あーあ、もったいない」という幻聴が聞こえる! 聞こえるよォ! でも、僕こうみえてもskebで3000円以上で何枚も絵を描いているんですよねェ! 今回完全に「描く料金」はゼロですよ、ゼロ!! 12枚も描いたから36000円は浮いてるじゃないスかあ!! うう、もう一回同じものを作るなら、絶対により上手くやる自信がある。あるけど、いまはもうやりたくない。
36000円のただ働き。そう思うと、損失感がすごい。これって、skebで「お金をもらって絵を描く経験」をしたから、余計なプライドがついてしまった故の苦しみなのだろうか・・・。でも「絵に金を払う」のは、正しい価値観であって欲しい。(この狭い町内会にそんなものはないのだが・・・)

仕方が無く、できた絵をタッカー(巨大ホチキス)で木枠に打ち込む。ステープルの跡が目立つので、そこには☆や桜のシールを貼って誤魔化す。実際イイ感じに誤魔化せた。このやり方のいい所は、以前はまるごと一基を全部張り替えないと行けないため、おいそれと手が出なかったのが、パネル式なので一面だけでも直せるところだ。やる気さえあれば、毎年のプリキュアを載せられる。

そこまで考えてはたと気がついた。いや、この町内に、もうそんなに子供はいない。なので、本来はそこまでやらなくてもいいのだ。あの目線の合っていない呪われた顔色のトーマスを、数少ない子供たちが低いテンションで担いで町内を練り歩くのを、黙って見過ごしていればよかったのだ。この子供神輿自体が、滅び行く文化なのだ・・・。

しかし、この絵描きの、この目が、この指が、それを許せなかったのだ。少なくとも、うちに小学四年生がいる。この子が小学校を卒業するまでは、それまでは、この文化は息をしているはずなのだ。その数年の間だけでも、この御神輿に全力をぶつけた甲斐は、あると思う。


だがその後で、三基もある御神輿をかつぐ子供がいなくなっていく未来がすぐに来る。昔は60人くらいの子供が町内に居たそうだ。だからこそ三基も子供神輿があって、どれもが取り合いだったそうだ。
最低二人いれば担げる御神輿なので、6人もいれば三基の神輿は全部可動する。しかし、これが遠くない未来5人になる。それがこの町内会の「終わりのはじまり」だ。

子供神輿三基で12面あるので、12枚の絵を描いた。
基本的に、子供に好かれるキャラで、かつ数年は古びないものを選んだ。
ピカチュウ、カメックス、リザードン、アーニャ、マリオ、アンパンマン、すみっこぐらし、おぱんちゅうさぎ、ちいかわ、ヒロアカのデクくん、パウパトロール。

しかし、大丈夫な範囲で、1枚くらい自分の好きな絵を混ぜておきたい。ここでは、鬼滅の刃の煉獄さんを描いた。今回は、ただこの煉獄さんがイイ男に描けたことと、それを子供たちに見せられることだけが、喜びだ。

・・・まあ、いまの未就学児どもは、煉獄さんなど知らないだろうけどな・・・。父兄の方々に、通じれば嬉しい。

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