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なんでザクって名前だと思う? ザコだから? ジオンが自分の国の兵器にそんな名前つけるわけないだろ小説
※ご注意
最初の機動戦士ガンダムを少し知っていると、割と楽しめます。
時代としては、逆襲のシャアが終わったくらいの設定とお考えください。
ジオンのマークは、何の印?
「二人目の捕虜?」
受け取った紙の報告書を睨む。
敬礼は綺麗なものだが、顔に疲れが見える下士官が言った。
「やたらとよく喋る、ネオジオン兵です」
「・・・・・・楽そうじゃないか」
敵軍の捕虜から情報を得るのは、たいがい苦労をするものだ。
「いや、それなんですが大尉、我々がいままで聴取してきた情報と、かなり違うもので」
情報を攪乱させるためか? と一応警戒はしたが、こんな戦略価値が低いエリアでは意味が無い。
「例えば?」
「はあ、ジオンの国旗は花なのだ、とか」
「花?」
「サイド3建造当時、コロニーの一部は植物栽培用に設計されており、小麦の栽培や、薔薇の栽培で発展したのだとか」
「ああ、それで」
少し興味がそそられた。
「ジオンのマークは、あれは薔薇なのか」
いまだに、ジオンのマークには何の意味があるのか、明確になっていない。
ここは、連邦軍の中でも最前線から遙かに遠い戦史編纂所だ。連邦とジオンの歴史に関わる資料がかなり集まってくるが、それでもジオンのマークについての「これだ」という見解は聞いたことが無い。
ガセネタか? とも思ったが、言われてみれば、ジオン軍は薔薇を愛する傾向が強い。たしか、マシュマー・セロという強化人間や、ガザDの一部パイロットの間では、特に愛されていたと聞く。アクシズでは明確にその傾向があった。
いや「シャロンの薔薇」という暗号も存在するらしい。ジオンは昔から薔薇が好きなのだ。
「もとは穀物が豊かに実って欲しいという願いだったそうです」
背後の資料棚から、適当な資料を抜き出してめくる。
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ジオンのマークは、下から根と葉と花そして実で構成されているように見える。根がくさびのように鋭いデザインなのは、宇宙環境でも力づよく根をはり、抜けずに生育しようとするド根性を感じる。
「まあ、言われてみれば、そんな気もするな。その捕虜の名前は?」
再度、報告書を手に取る。
「タクミ・アマノと名乗っています」
日系ジオン人だ。
「会ってみよう」
ジムって、兵器なのにどうしてド派手な紅白カラーなの?
「だーめだアンタ、何にもわかっちゃいないよ」
戦史編纂所に送られてきたネオジオンの捕虜は、皮肉たっぷりに口元を歪めて、手をひらひらと振っている。
だいぶ強火で炙られた奴が来たな、と思いつつ、様子を見る。
「なんだと。ジムは名機だろう。あのカラーは、ジオン許すまじというアースノイドの『正義』と『怒り』を表す白と赤だ」
「名機なのは認めるがね」
やれやれ、という感じでため息をつく。「いや、これは深呼吸だ」と気づいたのは、その中年捕虜の話が止まらなくなってからだった。
「一年戦争の時代、連邦はジムを馬鹿みたいに大量生産したよな? すると何が予想される? 同士討ちの危険性だ。有視界戦闘のとき、戦場で目に入るのは連邦のモビルスーツが圧倒的に多いんだ。あのド派手な縁起のいい紅白カラーは、戦闘時に味方を目立たせる目的さ。ビーム兵器の誤射は致命的だからな。これに対してジオンは数が少ない。初期こそ歩兵を威圧する目的でザクを赤やら青やら黒やらに塗ってきたが、最終的にグリーンに統一された。ジムから隠れるためだね。残念ながらジムは強かったよ。それに」
どこで息継ぎしているんだろうと思うくらいに、捕虜は喋りまくっている。情けない顔でこちらを振り仰ぐ下士官を退かして、捕虜の対面に座って手を組む。
「続きを聞かせてくれ」
ふふんと鼻で笑って、捕虜は続けた。
どうしてザクだけ右側に盾を装備してるの?
「あんたたちのジムが、左手で盾を構えて出てきたときは笑ったよ」
何の話だろう。どこに笑える要素がある? と警戒しつつ話しに乗ってみた。
「ジムは右手にスプレーガン、左手に盾が基本だ。我々連邦兵は圧倒的に右利きが多い上に、最初のデータがジャブローに届いたとき、アムロ・レイの操縦データもすべて右利きだったからだ」
そうそう、と嬉しそうに捕虜は笑う。やっと話の合いそうな士官サマがいらした、という顔だ。
「あれが出てきたから、俺たちジオンも、右に火器、左に盾に転換させられたんだよなあ」
ジム、というかRX-78ガンダム開発以前まで、ジオンのモビルスーツ、ザクは右側に逆L字の盾を装備している。現在の主流とは逆なのだ。
対モビルスーツ戦が想定されてから、これはスイッチして、グフもゲルググも、左に盾となっている。いまでもそれが主流だ。
「気がついたかい」
こちらの表情が微妙に変化したのを見て、嬉しそうに捕虜が誘う。
悔しいが、疑問はある。どうしてザクは反対なんだ?
「ザクができたとき、戦う相手は戦艦だったからさ」
コップの水を飲んで、捕虜は実に楽しそうに語った。
「足はともかく、手のマニピュレータは脆い。人差し指なんか、すぐに折れちまう。繊細な火器管制には絶対に必要で保護しなきゃいけない場所だ。だから火器を使う右手を、まるっとガードするために長いカバーが必要だったのさ。それがあの長い逆L字盾。地上戦用のザクも同じ。絶対に転ぶし、そのときとっさに地面に手をつくと、マニピュレーターがへし折れる。まず長くて肩につけた盾が、先に接地して手を守るようにしてあるのさ。手はMSの命だからな。おたくのガンダムちゃんも、人差し指が折れただけで、ただのバルカン砲台になっちまうだろ?」
「むう」
歴史上の謎が一つ解けた。ザビ家が独裁を始める際に、それまでのジオンの歴史や技術開発史は、ほとんど処分されてしまったのだ。宇宙に散逸した資料の回収はほぼ不可能で、一年戦争以前からずっとジオンにいた人間の証言を集めるしかない。だが、どの捕虜も一様に口が固いのだ。
ジオン史を連邦側からまとめる困難に、ややあきらめがあったが、この男の来訪は、降って湧いたような幸運だ。興奮して眉があがりそうになるのを自制。少し深呼吸。
この男の説が、歴史的に正しいかどうかは分からない。
ザクの左肩のトゲトゲは何? 顔の動力パイプは何を伝達してるの? それとジムのサーベルが左オンリーなのは何故?
「左肩の、あのスパイクはなんだ」
「そりゃ、あれも対戦艦だ。万が一、両手が使えなくなったとき、戦艦の外壁に穴を開けるためだよ。残弾ゼロでも、肩からぶつかれば、気密を破りやすいし、上手くすれば沈められる。ガデムっていうオッサンが、得意だったよ。手持ちの武器がなくなったら、全関節をロックして、肩からぶつかる奴。まあ、残弾ゼロなら次はヒートホークだけどな。設計当時は、モビルスーツと戦うことを想定してなかったから、とにかく戦艦の外壁に穴を開けちゃるっていう戦法だよ。そのための、右手を盾で守り、左で火器を構えるデザインだ」
面白い。
「続けてくれ」
聴取用とは別にノートを取り出して、先をうながす。
「ジムもいい設計だったな。左側にだけビームサーベルが突き出てるのは、右手スプレーガンで戦いつつ、接近戦になったら空いた左手で抜くためだろ?」
ご明察。
ライフルをビームサーベルに持ち変えるという、複雑なモーションを開発している暇がなかったのだ。
「動作の精度が低い状態で持ち替えに失敗すると、それこそバルカン砲台落ちだからな」
そうそう、と楽しそうな捕虜に、重ねて問う。
「ザクの、足と胴体の動力パイプ、あれは分かるのだ。エンジンの出力を各部に伝導するためのものだろう? では、あの顔についてるパイプは何だ。何の動力を、どこからどこに伝達している? 頭部にエンジンなんか無いだろう」
「ああ、顔のあれだけはセンサーガードだよ。動力パイプじゃなくて、ロールバー」
これも初耳だった。
「そうなのか?」
「旧型ザク(ザクⅠ)にはついてなかったろ?」
たしかに。
「ザクⅠにも、あれはあれで、車のドアビームみたいに衝突エネルギー吸収補強材が詰めてあったんだ。けど、センサー類を大型高性能化させるときに、外に出した」
なるほど。
「格闘を前提にしたグフは、だから上下にカーブを描いて立体的に頭部センサー類を守っている」
それで気がついた。
「まさか、ギラドーガのスネ装甲に穴が空けてあって、わざわざ弱点のはずの動力パイプが露出してるのは・・・」
「あれもそう。オープンカーのロールケージみたいなもんだな。剛性を上げてるんだ」
長年の疑問が氷解した。チラッと時計を確認する。このおしゃべりな捕虜から、様々な新説が飛び出してきた。許された時間内に、聞き出せるだけ聞き出したい。
ザクは何でザクっていうの? ドムは? ゲルググは? ザクレロは? ズゴックは? ゴッグは? あとジオングは?
「ザクとは、そもそもどういう意味なんだ」
戦史編纂中、一番最初に首をひねった疑問である。
「ああ?」
と捕虜。質問の意図が通じていないようだ。
「我々連邦側が『ザクザクと軍靴を鳴らして進軍してくるからザク』と決めつけるのも当て推量が過ぎる。それに「雑魚(ザコ)」をもじったなどこちら側の笑い話だ。ジオンも、自分から『これはザコ』などという名前をつけないだろう。本当の所はどうなんだ」
「あんた、さっきから何を言ってるんだ。ザクじゃない。いいか、よく聞け『ザャク』だ」
ことさらに、ゆっくり、ハッキリ発音して、捕虜は言った。
「ザャク?」
ジオン訛りの、かなり強烈な発音。
「分かるかな、標準語で言い直してやろう。『ジャック』だよ」
「ああ!」
ジャックか! 男性の名前だ。それがジオンの言語環境で訛ったのがザャクであり、ザクだ。犬にジョンなどの人名をつけるのと同じなのだ。
「ドムは、トム」
猫の名前が出てきた。
「たぶん、クロネコだったんだろうな、トム。ツイマッド社の社長は猫好きだったのかもしれねえ」
なるほど、ジオン訛りが酷くてそうなったが、もとは人名。
「ゲルググは、ゲオルグ。つまり、ジョージのドイツ語読みだ」
急に雰囲気が変わった。
「ジオンの技術者にはドイツ語圏派閥があるんだよ。ケンプファー(独語:闘士の意)とかな」
「では、ザクレロは、ジャック・レロ・・・か?」
「惜しい。ジャック・リーローという名前の、虎の童話が元になってる。ジオンの童話作家が描いたんだが、虎なんて大昔に絶滅しているだろう? 黄色で、牙が生えてて、両手にするどい爪ってな、そんな情報だけが一人歩きして、実物を観たことの無い作家が想像で描いた虎がジャック・リーロー。旧世紀の朝鮮戦争で使われたシャーマン戦車を見たことあるかい? あの虎も、たいがい強調が過ぎるがね」
「まさか、連邦で次世代機が作られたとき『ハイザク』でなく『ハイザック』になったのは・・・」
「連邦の発音が混じって、少し訛りがとれたんだな。ハイジャックだと違う意味になっちまうし。完全に連邦製のザクができたら、そりゃもう『ジャック』だろうけどさ」
「ズゴックは?」
「あれは俺にもわからねえが、水陸両用機の開発チームは日本の東北地方出身のグループがいたんだ。日本の四国で食べた蟹がいかにも美味かったんで『四国』と名付けたって、噂で聞いた。さすがに俺も全部は知らねえよ。アッグガイとか、水中戦用機はわけが分からん名前が多い」
「四国が東北弁に訛ってズゴックか」
なるほど。いや、こんなのが有り得るか?
「ゴッグは」
「単純にコングだな。五本指だし、体色、頑丈さ、怪力、手長短足とくりゃ、見てわかるだろ」
「お前、さっき水中戦用機は東北弁だと言ったろう」
「会社が違うんだよ。ドムを作ったツイマッド社だ。あっちは英語野郎が多い」
「それだと逆にジオングが際立つな。あれは何だ。やっぱりジオン軍から『ん』を省いたシャレなのか?」
「ああ、あれは建国の父ジオン・ズム・ダイクンの名前をつけたものでな。日本海軍の戦艦大和みたいなもんだよ」
意外に普通だった。
「ただ、乗ってたシャア総帥に限って言えば実父の名だ。その父を暗殺したザビ家のキシリアからもらったっていうんだから皮肉な話だよ。開き直って、地球寒冷化作戦のときにはサザビーなんていう『ザビ』のつくモビルスーツに乗ってた。あれはザビ家支持派を取り込むためだろうけど、お辛いことだよ」
新しいページをめくって、メモを続ける。
グフのフィンガーバルカンって、使いづらくない? でもジオングの指ビームにも残ったよね? なんで? あとジオンの精神
「ジオングの指にはビーム砲が付いているな?」
「付いてるな」
「それに、グフにも指から発射するバルカンが内臓されている。だが、手持ち武器の方が使いやすいのではないか? 実際、グフカスタムでは外付け兵装になっていただろう」
「たしかにそうだ」
ニヤニヤしながら、捕虜が聴いている。質問されるのが嬉しいらしい。
「だが、ゲーマルクにも、ネオジオングにも指から発射するビーム兵器が付いていた。あれは何だ。伝統的に続いているということは、開発者の迷走ではないのだろう。ジオンは指からビームを出すのにこだわりがあるのか?」
「そんなわけじゃねえよ。ただ、サイド3製の建設用モビルワーカーは、溶接工事用の左手マニピュレータの指先に、電子ビーム溶接のユニットが付いていてな」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。操縦免許を持ってる奴がそのままモビルスーツパイロットに転職する傾向が強かったから『ああ、工事のときに使ってたあの要領か』って、すんなり身につくんだよ。ジオンのコロニー土方は結構パイロットに徴兵されちまったから、ソーラレイの改築工事は残り少ない作業員が何日も無交代で働かされてな、何人も過労で死んだらしいぜ」
ひでえ話だ、と呟いてから捕虜が笑った。
「軍人でもないやつに戦争やらせるくらいには、ジオンに兵はいなかったんだよ」
「ふむ」
でもさ、と顔をのぞき込んできた。
「あんたも、手元にハサミが見つからないとき『この二本の指がハサミになったらいいのにな、ターミネーターのT1000みたいに』とか思ったことあるだろ?」
「旧世紀の映画を知っている前提で話すな」
「あれがジオンの精神だよ。身体の拡張さ。そうして、連邦に勝つためにモビルスーツを作ったんだ。この身体がもっと大きかったら、連邦を踏み潰してやるのにってね」
「・・・・・・」
ボールのデカさと、傑作機ドムの使いづらさ あと大尉殿の夢
「しかし、あのボールのでかさはビビったぜ。なんだアレ。ガンタンク並みの大砲を積んでるのはわかるけど、一人乗りで足も無いだろ? なんであんなにデカいんだ」
「そりゃあ、あれは連邦の宇宙作業ポッドだからな。中にトイレと仮眠室があるんだよ」
「ああ、なるほど。さすが資源の豊かな連邦は、豪勢だねえ」
「あんた自身は、モビルスーツには?」
「俺は乗り物酔いする性質でね。ダメだったよ、適性がなかった。でもドムには乗る機会があったんだ」
「ドムか」
ホバー走行可能な一年戦争の傑作機だ。二足歩行で移動するよりは、確かに酔わないだろう。
「ただ、あれは、実際の作戦には使いづらかったんだ。ドムは対ジム戦では無類の強さを誇っていたんだが、ジオン地上部隊としては使いづらいの何の」
「ほう?」
やはり補給などの問題だろうか。ドムが登場してからすぐに、戦場は宇宙に移ってしまい、地上部隊に純正部品は届かなくなっている。
「いや、そうじゃない」
「なんだ」
「ドムはホバー移動するだろう? アイドリングするだけで、ものすごい砂埃が立つんだ。ヘリコプター着陸の比じゃ無いぜ。野営設備も何もかも吹っ飛んじまう。だから基地からかなり離れた場所に駐機しないといけないから、パイロットも整備兵も遠くからワッパで移動しなきゃいけない。それか、あの太い足でギッコンギッコン歩いてくるしかねえが、重すぎて膝がやられるんだ」
「はあー」
「戦うと無敵だったんだけどな」
実に面白い話だった。
大尉などという階級を襟元に貼ってはいるが、最前線から遠い勤務地が長い。持病もあって、戦史編纂所にずっと勤務している。戦争の資料だけはやたらと見るが、この身でモビルスーツに乗ったことも無ければ、整備をしたこともない。中央からの公式発表資料だけが、自分にとっての戦争だった。
その位置から見ると、この捕虜の話は実に面白い。
勝利者である連邦が、都合のいいように歴史を書き換える。それが戦史編纂所だ。その片棒担ぎにもウンザリしていたところだった。
退官したら、自分で歴史書を書いて残そうという野望を隠してここまで勤めてきた。だが、それが実現するかもしれない。この捕虜から聴けた話は、まったくもって聞いたことの無い新説ばかりなのだ。裏がとれれば、いくらでも本が出せる。
「機動戦士ガンダム」はコロニー落としで始まる
「連邦のプロパガンダ映画があっただろ。『機動戦士ガンダム』って奴」
「ああ」
名作だ。自分も何度も観た。
「テレビ版の最初、オープニングのさ、タイトルがでる前に『ドゴーン』って音がして、夜の面から見てる地球の、右の端に光がでて、光線がぐるりと地球を回るシーン、あったよな?」
「あったな」
「ありゃコロニー落としを描いたものだ。製作スタッフにシドニー出身者がいてさ。衝撃波が地球の裏側にまで達して何周もした歴史的悲劇を表現している」
これはウソだ。連邦側の情報は、この捕虜よりよく知っている。
「しかし、正史資料によるとあれは『夜明け』であったと、コンテ資料にも明記されている」
「そりゃ、そうでも書かなきゃ検閲が通らないからさ。連邦がジオンに勝利する話なんだろう?」
取調室の外に待機しているであろう下士官を顎で示す。さっき「ジムの白は、連邦の正義をあらわす」などと凄んでいた男だ。
「連邦の正義を示し、希望の夜明けを知らしめる物語。1カット目からコロニー落としを描くなんて皮肉が効いてるよ」
「いや、それは違う。デラーズ紛争を描いた高解像度版のエンディングでは、明確に夜明けだった」
そもそも惑星の向こうから太陽が出現するのは「2001年宇宙の旅」にあったシーンのオマージュなのだ。これをなぞっているに過ぎない。
「それじゃあ、なんでその夜明けの白い線が地球を一周するんですかねえ~? 2001年でも、いいとこ三分の一だったぜ?」
言われてみれば。このプロパガンダ映画は、科学的な描写と演出が凝りまくっているので有名だ。そんなミスがあるだろうか。
この男の話に、自分の歴史観が崩されていくのを感じる。
だが。
「実に面白い。もっと詳しく聞かせてくれ」
言いながら、ノートのページを新しく開いた。
「長くなるぜ?」
捕虜は、ニヤと笑って言った。
「煙草、もらえるかい?」
どこのジオンから来たんだキミは
「大尉、奴の話を歴史資料館に送ったんですけど、全部デタラメだそうです」
「なんだと」
返送されてきた紙束には、猛烈な量の朱が入っていた。
原文を書いたのは自分なのだ。ショックを受けながら順に確認し、最後の一枚を握りしめる。
ジオン公国史のどこにも、彼が言っていたような事実を裏付けるものは無かった。サイド3やアクシズで長く生活していた元ジオン軍人や、モビルスーツ開発に直接的に携わった関係者からも、これらは全て否定されていた。
茫然としながら呟く。
「じゃあ、あいつはいったい・・・・・・」
本当に見てきたように語っていた。
妄言と切り捨てきれない熱量があったのだ。
「奴はそもそもどこから来たんだ。所属は? 出身は?」
下士官が捕虜の調書をめくって、その手を止めた。
「え・・・・・・」
絶句している。
「どこなんだ」
「いえ、それが」
首をひねりながら、下士官は言った。
「『キラキラの向こう側』だそうです」
あとがき やってくれたな庵野ォォォオオーーー!!!
機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) ビギニングは、テレビアニメの先行上映なので、映画としてはまともな体裁をとってはいない。
だが、オモチャとしては、もの凄く面白い。
みっちり詰まっているのではなく、巨大な空白がいくつもいくつも空いている。その広大な空間で、我々は妄想を膨らませて遊ぶのだ。
先に公開して好評を得ているネタバレ真相考察では、ジークアクスの世界とは「ガンダム正史に並走する、また別のガンダム世界」であると考えて書いた。
正史とビギニングでは、モビルスーツのデザインも設計思想も違う。それでも、間違いなく宇宙世紀ガンダムだ。だったら、もう一本くらい別世界があってもいい。
以前から「公式資料とは違うけど、個人的にこうだったら面白いな」と思っていた俺ガンダム設定を、ズラズラと並べてみた。
最初は整然と並べたのだが、自分でも大嘘だと分かっているので書いてるうちに「自分は狂人ではないか」という気持ちが盛り上がって恐かったので、小説としてみた。ウソはフィクションで包めばどうにかなるようだ。
こういう、ウンチクや自説を喋りまくるキャラといえば、千葉繁さんだなと思って、パトレイバーのシゲさんを想像して書いたらスラスラ行けた。大尉の方は秋元洋介氏。
ただ、どこにどう出しても「でも公式にはこう書かれている」と否定されてきた説だ。大嘘には違いない。
庵野秀明氏が、思いっきり横紙を破いてくれたので、続こうと思う。
それにしても、近年のガンダムは凄い。
まず「水星の魔女」だ。
これは「わあい、リコリコ第二期っぽーい! と集まってきた百合豚どもに、スレッタの人間平手潰しでサンダーボルトをお見舞いだァー!」という作品で、当時の阿鼻叫喚が懐かしい。僕も叫んだ。
続いて「SEEDフリーダム」
これも「わあい、待ちに待ってたシードの映画だよー! 我々は20年待ったのだー! と集まってきた訓練されたガノタ共に、アスラン・ザラが赤いズゴック無双でセクシーコマンドーをお見舞いだァー!!」という作品でやはり阿鼻叫喚。笑った。
そして「ジークアクス」
ご存知の通り「わあい、エヴァの会社のガンダムだー! 絵はポケモン! フリクリっぽい雰囲気かなー? と集まってきた『まあ、ガンダムだし観といてやるか』なオタク共に、ギレンの野望をお見舞いだァー!!! 庵野ォォォー!!??」という作品で、この阿鼻叫喚は、今日も劇場から聞こえてくる。
ファーストガンダムを見たのが小学生の頃。あれから増えすぎたガンダム作品を見るようになってもうすぐ半世紀。いまだに、これだけ楽しませてくれるガンダムには、感謝しかない。