【365日のわたしたち。】 2022年5月22日(日)
夕方のベランダは、心地よくて物悲しい。
もうすぐ夜が来るというその終わりの感じが、その印象を与えているのかもしれない。
向かいのベランダでも、おばさんが洗濯物を取り込んでいて、
もう今日も終わりにしようか、と幕を下ろされているような気分になる。
ふと空を見上げる。
オレンジと薄青色が綺麗なグラデーションを作り上げている。
かと思うと、空は徐々にピンク色に変わってきたようだ。
美しいなぁ。
人間は自分達で美しいものを作り出そうと躍起になっているけれど、
もうそんなことしなくたっていいじゃないか。
絶対的に美しいものは既に自然界に存在するのだから。
それを愛でているうちに、俺たちの一生がすぐに終わりを迎えるはずだから。
この自然の美しさに身を任せていようよ。
そう思いながら、ぼんやりと空を眺めていると、徐々に自分の手も見づらくなるほど、あたりは暗くなってきた。
夕食時に、妻にその話をした。
そう思ったんだ。
自然に身を任せておけばいいじゃないって。
そうすると妻は、
「あなたは何もわかってないのね。感謝さえも思いつかないんだわ。」
と言った。
「あんたがこの前買ったパソコン。Macだっけ?
フォルムが美しいんだって見せびらかしてたわよね?
あの美しさは、自然の中にはないわよ。
あと、そのTシャツ?
デザインが好きなんだって?
その絵を生み出したのは、紛れもなく人間よ。
あなたはわかってないのよ。
人間が生み出す美しさが当たり前になりすぎてる。
自然に感謝するのは多いに結構。
ただ、人間にも感謝しなさいよ。
あなたが知らない、
想像もしないほどのトライ&エラーを繰り返した先に、
あなたが「欲しい」と思ったものは生み出されているのよ。
あなたが好きだと、
あなたが美しいと、
そう思えるものを生み出してくれた人たちに、感謝しなきゃだわ。
話はそれからよ。
あと、そのカレーを作った人にも感謝しなさい。美味しいでしょ?」
妻の怒涛の言葉責めに、俺は「美味しいです…」と一言だけ答えた。
そんなつもりはなかったのに。
ただ共感してほしかっただけなのに。
世知辛い世の中だ、と心の中でぽつりとつぶやいた。