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それでもロシアを擁護する人たち
ロシアのラブロフ外相がブチャで多数の市民の遺体が見つかったことについて「フェイクニュースによるウクライナ側のロシア攻撃だ」。そうとしか答えようがなかったのだろうが、一事が万事、嘘を吐くのはロシア側。それでもロシアを擁護する者が日本にいる不思議。
— 加藤清隆(文化人放送局MC) (@jda1BekUDve1ccx) April 4, 2022
加藤清隆さんのツイートを受けて、「それでもロシアを擁護する人たち」について考えてみる。検討対象は比較的マジメなロシア擁護論のみに限定した。
見たところ、もともとロシア擁護の位置に立っていた人々には大きく分けて、①生粋のロシアの国益代弁者、②反米ゆえのロシア擁護、③反・国際金融資本(DS)、④先の大戦における日本との類似性による露へのシンパシー、⑤ネオナチウクライナへの反発による消極的ロシア擁護、の5種があったとおもう。
①生粋のロシアの代弁者
これには佐藤優氏、馬渕睦夫氏、鈴木宗男氏が該当する。はじめから答えが決まっているので検討しても仕方ないのだが、馬渕大使は③の反・DSを兼ねている。古くは瀬島龍三をはじめ日本の国益よりも他国の利益に即して働くゾルゲや尾崎秀実の如き存在が彼らのほかにも外務省や政界にはもっと居るのだろう。(彼らにはそれが日本の国益を兼ねるとの錯誤がありそうだが。)
②反米ゆえのロシア擁護
このジャンルにはソ連時代以来、慣性の法則に則った惰性左翼と、対米自立を志向する反米右翼とが相乗りしている。「米軍出てけ」の化石左翼やリアリズムを欠いた観念サヨクは論外だが、後者については右翼・民族主義の「一水会」が代表例といえよう。
『終わらない占領との決別〜目を覚ませ日本』(かもがわ出版、1700円+税)が好評。占領体制の実態は米国の利益保持であり、わが国の自立心を失くし、依頼心を強くさせ、自主国防を遠ざけている。特にFMS利権が国産防衛兵器の開発を阻止している点に断固反対だ。改めてご一読の上、目を覚まして頂きたい。
— 一水会 (@issuikai_jp) April 2, 2022
連日のウクライナ報道は多くの日本国民の同情を喚起。だが、これまでの欧米の侵略史にはこの様な熱狂はなかった。ロシアの「侵略」行為そのものではなく、実は米発の新自由主義によりロ共同体主義を葬る事が真の目的ではないのか。欧米近代合理主義で、日本も自我像を解体されている。目を覚ませ日本。
— 一水会 (@issuikai_jp) March 26, 2022
一水会の主張には一理あって、日本には戦後以来、対米従属という持病がある。この宿痾に無頓着になりすぎた感がある今日、西洋近代と白人支配に抗って戦った戦前の日本を想起するなら、現在の露叩き一辺倒の西側の論調に無批判に追随するかのような風潮にNO!を言いたくなるのも心情的に分かる。不均衡な日米関係を勘案しない右からの「改憲」の声にも一抹の危険を感じる昨今、日米関係の基本形を踏まえておられる点も好ましくおもう。ただし!
それでロシア擁護というのなら短絡的にすぎる。第一に、日米同盟の重要性がピークに達した今は反米を言挙げする時期ではなく、対米自立なら最低でも中国の台頭前、80年代の日本経済の絶頂期までに着手しておくべきだったのであり、今となってできるのは日米同盟を基軸としながら核抑止を検討したり、安保体制の外形を維持しつつ、地位協定を改善する等で内容面での実質的な「対米自立度」を段階的に上げてゆくこと、それしかない。
第二に、反米ゆえの親露ならば「敵の敵は味方論」でナチスドイツとつるんで共に枢軸国となっていった失敗に学んでいないことになる。しかも反中で反米?そこに反露が加わる?スーパーパワーに挟まれた上に軍事力に制限を課され、経済的にも振るわない日本のただでさえ難しい舵取りを、さらに八方を敵にして難易度を増すというのか。
第三に、日本が国家としてロシアを擁護するなら、WWIIで果たせなかった「世界秩序への再挑戦」を意味することになる。日本とドイツはWWIIでやったことも戦後国家のサバイバル戦略も異なるが、「西側に立ち」「国際社会との協調」という路線では同じ。安倍元首相による「戦後レジームからの脱却」も自虐史観からの脱却ではあっても世界を再度敵に回して戦うことではない。ご都合主義的にロシアの暴発に便乗し日頃の鬱積を晴らしている場合ではなかろう。
一水会の姿勢は、ツインタワーに突っ込んだ9.11を受けて「その手があったか!」と叫んだ小林よしのり氏を彷彿とさせるものがある。
③ディープ・ステート(DS)忌避ゆえのロシア擁護
プーチンはDS/グローバリストと闘う愛国者である、ゆえにロシアを擁護するという論がこれだ。プーチンがDSのNWO(New World Order)と戦う戦士だとして、戦いに勝利したプーチンが目指すNIO(New Int'l Order)とは、中露が結託して統べる世界秩序である。それがマシとは到底思えないし、それ以前にロシアはこの戦いに勝てない。DSが元凶というのであれば、むしろプーチンや馬渕大使とともに国際金融資本という古くて新しい病が「陰謀論」として一笑に付されて消滅することを危惧するべきだろう。
加えて、馬渕大使が触れないことがある。それは世界で最もDSが浸透している国は何処かということだ。米との軍事同盟が国防の基軸となり、NATO諸国よりも格段に不利な地位協定を結び、おもいやり予算を奮発し、国産は廃業して米国製の武器を調達。年次改革要望書~合同会議では経済的な主権侵害が状態化した国が米軍産共同体から無傷だと思うのか。それでいてウクライナがDSの手先だとはどの口が言う?占領期以来のジャパンハンドラーについて語れ。足元を見てから言え❗
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ソ連崩壊後のウクライナは一貫して「脱露入欧」路線を歩んでいるが、いかんせん経済力が伴わないため往々にしてフラフラする。ウクライナは'91の独立以来、まだ一度もソ連時代のGNPを超えていない。ロシア離れを志向するウが米資本に頼るのは当然の流れであり、ひいては(良いとは言わんが)国際金融資本が浸透しても不思議はないのだ。
④大日本帝国との類似性による同情票
反グロバで国民国家体制を重視し、NATO東方拡大による圧迫と経済制裁で追い詰められたロシアが大日本帝国と類似しているという説だ。たしかに似ている点はあるが、ロシアは広大な領土を持つエネルギー大国であり、食料自給が可能な点でかつての日本とは根本的に異なる。むしろ類似点としては明確な目的なく、なし崩し的に日華事変に突入して大陸の奥地へと引きずり込まれた部分と、宣伝戦で大敗している点がよく似ている。日本の南進はそれ事態が失策だった。北正面(対ソ)専念を主張した石原莞爾に対して南進論は武藤章。武藤はのちに「点は占領できても面の占領はできなかった」と語ったが、それも20万の兵力でウ全土を掌握できない露のようだ。兵力の問題以前に皇軍もロシアも国際社会を敵に回してしまった。日本は上海で引き上げるべきだったと思う。「開戦」を宣言せずに「事変」とした点も似ていてロシアは「軍事作戦」と言い張っている。我々が「失敗の本質」を学んでいれば分かることだ。
⑤ネオナチ国家に同情できないという理由による消極的ロシア擁護
これもロシアのプロパガンダの請売りで、露側が何を指して”ネオナチ”と言ってるのかは定かでなく、明確にしてくれれば話が早いが露はそれをしない。停戦協議でも俎上に上げない。 東部でのジェノサイド疑惑についてもロシア側は内紛による死者をジェノサイドの犠牲者と規定しているフシがある。アゾフ連帯のような集団がウ国民の求心力となり、国を挙げて「反露」に傾いていることかと想像を逞しくするものの、おそらく「黄禍」「鬼畜米英」の類の戦時下のレッテルだろうと思われる。「虐殺」に抗議しつつブチャで虐殺を行ったのはロシアだ。ウクライナ国内にネオナチが存在しないかといえば、それは存在するし、長期の紛争状態ではどちら側にも行き過ぎがあって不思議はないが、ウクライナがネオナチ国家というのは言い過ぎである。またネオナチは東欧全域に散在しているのであり、ロシアがネオナチ大国であることも忘れてはならない。
アゾフ連帯については、昨今、ネットの風評を気にしてかTVでもやりだしたが、私としては東欧のナチズムを研究した『せめぎあう中東欧・ロシアの歴史認識問題』とルート・ヴォダック著『右翼ポピュリズムのディコース』の二冊から、軍事評論家の黒井文太郎さんの見解を支持する。
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2014年頃の大隊はそうとうヤバかったけれど、国家親衛隊に格上げされる過程で順次刷新され、今では連隊となって多数の右派団体を糾合する中核的存在となっている。ただし黒井さんも指摘するように、個々の思想信条までは不明なので、個人レベルでは危ないヤツも混じってはいると考えるのが妥当だろう。東欧の民族主義には反共、反移民、反グロバ、反EU、反ユダヤ、反LGBT、白人至上主義、反汚職、国家観、歴史観・・・などなど、複数のクライテリアがあって集団ごとに特性を異にするが、現在のアゾフ連帯はその中の「反露」で大同団結を成立させている状態だ。
国家存亡の危機に際し、ウ政府が重要戦力かつ愛国心の支柱であるアゾフ連帯を重用するのは当たり前すぎるほど当たり前であり、よしんばウクライナがロシアが言うようなネオナチ国家だったとしても、それは原則的にウクライナの国内事情という位置づけになり、ロシアによる主権侵害の暴力行為と比肩するものではなく、ロシアによる侵略の口実にならないのは先のICJ(国際司法裁判所)の判決のとおり。ただしユシチェンコ政権以来のアイデンティティー・ポリティクスの採用はウクライナ国内の不安定要因ではあるので、もしもアゾフや極右民族主義者が問題になるとしたら、むしろポスト露ウ戦争のこととなるのではないか。
◉なぜウクライナを支持すべきなのか
上に見てきたように露ウ戦争をどの構図で見ているか・・・反米vs.親米、DSvs.反DS、ネオナチvs.反ネオナチ・・・の違いによってウ擁護と露擁護が分かれるが、それらよりもより高位に位置するのがクラシカルな「自由と民主主義(西)vs権威主義(東)」という構図だ。「力による現状変更」が認められれば、戦後の国際社会が積み上げてきたレジームが根底から覆る。法の支配も同様だ。これは自由を尊ぶ「リベラル」にとっても、また(革命ではなく)急進的、過激的方法を避けて一歩一歩前進する漸進的改革を志向する「保守」にとっても共有される最重要な「価値」だろう。
しかも露ウ戦争は従来の中東、シリア、アフガン等の極地紛争とは違って、全世界を巻き込んだ第三次世界大戦の前哨戦としての様相を呈しているのであって、各国の根本的な国際感覚と遵法意識が問われている。西側のみんなに合わせよと言っているのではなく、日本単独で考えてもウクライナ支持は自明だ。
そもそも露ウ戦争の大前提として、ロシア軍の戦車がウクライナ領土内に居ること自体がおかしいのであり、居る資格がないものが居てしまっている。ましてやブチャの目を覆うばかりの惨劇である。今に至ってこれらをウクライナ軍のヤラセと言い募る人もいるのだろうが、中国国民と共にそれでもロシアを擁護する人たちに対しては・・・向けるべき言葉を持たない。