はじめての『シェルブールの雨傘』

時々、少し古い映画を観たくなる。

雨が降っていたから…ということもあるのかもしれないが、『シェルブールの雨傘』(1964年)を観た。実は、この作品を観るのは初めて。

「全編を通して台詞が歌になっている」ということは聞き知っていたのだが、なるほどたしかに歌である。ただ、いわゆる「ミュージカル映画」を想像するとちょっと違っていて、「歌うように台詞を言う」の延長線上にあるような印象を受けた。90分という長さもちょうどよい。

そして、何よりも印象的だったのは色彩。今回観たのが2013年のデジタル修復完全版だったこともあるのだろうが、ビビッドなカラーでありつつも少しだけくすんでいて、ベッタリしすぎていない。
また、シーンごとに部屋の壁紙の色と洋服の色が合わせてあったりして、取り合わせの妙も楽しめた。

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「一番好きな映画は?」と聞かれると、『サウンド・オブ・ミュージック』と答えることが多い。小学校の音楽の時間に観せてもらったのが最初で、これまで折に触れて観ている。
今調べたら、こちらの作品は1965年公開。『シェルブールの雨傘』とほぼ同時期だ。そしてこちらも数々の楽曲で彩られている上に、冒頭からザルツブルクの山々の美しいカラー映像が目に飛び込んでくる。どうやら、私が映画を観る時に着目するのは「音楽」と「色彩」であるようだ(実はこれまで、この点について意識的に考えたことがなかった)。

文学にしても映画にしても、「古典的名作」と言われるものはタイトルだけ知っていても実際に作品に触れたことはない、というものが多い。それはたぶん、何かきっかけがないと手を伸ばしづらいから。人から勧めてもらったり、新装版のように新たな装いで現れたりしないと、「よし、あの作品を読んでみよう/観てみよう!」という気にはなかなかならない。

ただ、今回『シェルブールの雨傘』に至ったのは、雨という自然現象と、「自分がフランス語を勉強している」という状況が重なったことが大きそうだ。人から勧められたわけでも、リマスター版の案内を目にしたからでもないのだが、なぜか頭に浮かんできた。
「古典への扉」はどこに口を開いているか分からない。だからこそ、面白い。

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秋本 佑(Tasuku Akimoto)
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