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傾ききった天秤は/まなホム

かち、とライターで煙草に火をつける。煙を胸いっぱいに吸い込んで吐き出せば車内の空気がぼやけた。夜の駐車場なんて普段なら住人の一人や二人うろついてそうなもんだけど今日は人っ子一人いない。それもこれも、ここ最近街中で暴れてる犯罪者のせい。犯罪者の情報なんて一般市民に回らなくていいと思ってるのに、口の軽い住人がTwitterや噂話で広めてしまったせいで一般市民にすら広まってしまった。この街の住民は危機感が足りないから犯罪者がいたら気を付けるくらいの対応はしてほしいけど怯えて一人で歩けないような、そんな街になってほしいわけじゃない。何にも知らないで、馬鹿みたいに笑って馬鹿みたいに暮らしててほしい。そう思ってるのに、今の街の現状はどうしようもなくて。
「チッ…」
一息で吸いきってしまった煙草を灰皿に押し付けて、また一本新しい煙草に火をつけて深く吸い込む。めんどくさい事件が起きて以来煙草の消費量が増えてる気がする。犯人はなかなか捕まらないのに僕の知り合いが被害にあって悔しい思いだけ積み重なっていくような、そんな気分になる。
「むかつく」
最初のガイシャが、僕と愛未ちゃんの共通の知り合いっていうのもムカつく。ガイシャがきなこだって知って愛未ちゃんはずっと心配してて、一緒にいればよかった、早く出てきたらよかったってずっと後悔してた。その次はましろで、その次はアイアンメイデン三郎太で。
ましろなんか、後輩のれむ君のお気に入りでれむ君は犯人を刺し違えてでも殺してやるって唇をかみしめて悔しそうにしていた。
最初は他人のために必死になるの意味わかんねぇなって思ってたけどもし愛未ちゃんが被害にあってたらって思うと冷静ではいられないだろう。考えるだけでイライラして、北の街で一瞬見かけただけのあの男をどうやって殺そうか、なんていう考えに思考が走ってしまった。煙草を灰皿に押し付けてハンドルを掴んだまま大きく息を吐いた。証拠を残さない犯罪者に正直警察もやきもきしているのは事実。だからこそ強硬手段に出ようとしているやつもいて。特に救急隊なんて普段矛先が向けられることは少ないけれど、だからこそってわけじゃないんだけど初期の救急隊って結構無茶してたから、それが再来するんじゃないかってちょっと気になってたりもするし。
何かあってからじゃ遅いから、愛未ちゃんには元々渡してたアーマーを着こんで、銃を持つように言ったけどマジで愛未ちゃんに何かあったら自分の事だけれどどうなるかわからない。早く捕まえないとって気持ちだけが焦る。
ピピ、と無線が入ってまた事件が起きたという報告と共に、遠くの方から救急のサイレンの音が響いた。ステイトに愛未ちゃんの名前を見つけてまた一つ舌打ちをこぼす。
「あ、れむ君?僕も出るわ。」
『キーモット先輩大丈夫なんです?』
「大丈夫。早く終わらせなきゃだよ。こんなの。」
『オッケーです。どっかで合流しましょう』

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