親友のセフレのバンドマンを好きになってしまった話。①
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「知り合いのバンドマンがツアーで大阪に来ててホテルでみんなで飲まない?だって」
友人のB美がシングル用の少し狭いベッドに寝転びながらLINE画面を見てそう言った。1Kの7畳に女2人。時刻は日付が変わる少し前。
ちなみに私は名古屋住みではあるが、この女が好きすぎる故に休みの日はB美が住んでいる大阪へ頻繁に行き来して遊んでいた。そしてこれまた小さい座椅子に座ってスマホの恋愛ゲームを忠実にクリアしていく私。
知り合いのバンドマン?あぁ、最近界隈では売れてきた彼らか。虎視眈々なB美はいつの間にやら連絡を取り合う仲になっていたようだ。
rちょっと嫌だなあ。一人で行けない?」
私は心配していた。そもそも男と話すのは得意ではないし、なんならステージ上にいる彼らをLIVEで見たこともある。そしてボーカルの男には(ちょっっとだけ)憧れに似た好意もあった。それほど顔が良かった。芸能人を応援しているファンがプライベートまでは見たくない、それと同じ心理。少し興味がある彼らのプライベートな姿まで見たくなかった。これは本当に。
「お願い!ひとりじゃ嫌だ!1.2時間ですぐに帰ってくるから…ダメ?」
これはこっちが折れるまで続くやつだな。私はめんどくさい話が嫌い。まぁしょうがない。
「分かった。すぐ帰ってくるならいいよ。」
このすぐ帰るを安易に信用してしまったあの時の私。大馬鹿野郎が。本気で死ね。世間知らず!女のすぐ帰るは、大嘘。この時に初めて気づく。
rちなみにそこには誰がいるの?」
ボーカルの男への直積的な接触は避けたい…目を見て話せる自信がない…ボーカルの男がいるのならブチギレられても見放されても呆れられても断ろう…。
「えーっとね、私の知り合いのドラムと、あとはよく知らんけどギターの人。」
……ほーん。ボーカルの彼はいないか。緊張しないしちょうどいいや。って、あれ。確かギターの男って…。
「そうそう、ギターの人はN子のセフレだから。」
N子!!!セフレ!!!
私はN子とも仲が良かった。N子は東京の中目黒に住んでいる私より一つ下の美容師を目指している学生。東京へ遊びに行くときは毎回N子の部屋を借りていた。
彼氏でないなら正直どうでも良かった。彼氏だったら断るくらい良心は私もギリギリ持ち合わせている。それに私もそのギターの彼を異性としてもバンドのギタリストとしても意識していなかった。それほど存在感がなかった。ボーカルが眩しすぎた。。
ま、大丈夫だろう。自分のセフレと飲んだところでぷんすか怒るN子ではないのを知っている。N子だって数人いるセフレの中の一人としか思っていない、はず。
そんな浅はかな考えを持ちながら、私とB美は真夜中の煌びやかなミナミの繁華街を通り抜けて彼らのホテルのあるラブホ街へノコノコと乗り込んで行ったのである。ちなみにクロックスで。クロックスを履いて乗り込むくらいの軽い気持ち。そこは信じて欲しい。
泥沼の始まりだとも知らない私だった。