自分の機嫌のとりかた 往復書簡#30
画家・小河泰帆さんとの往復書簡30回目です。
前回は在廊中のお話でした。
小河さんの学生時代のデッサン、空間きれいですね。私が在学時、武蔵美の授業で石膏は描かなかったです。
私も写真フォルダ漁ってみたら、通信課題や対面授業、デッサン会などで描いたものがでてきました。まあ普通のデッサンとクロッキーなんですけど、この写真が何かの助けになる状況もあるのならば、一応携帯に保存しとこうと思いましたよ。
在廊は私も好きで、自分の絵を見るの幸せですね。自分の絵大好きってちょっと笑っちゃいますが、事実だからしょうがないな。
特に最高だったのは武蔵美のFALです。今まで個展をした会場でここが一番広いのですが、大学内のギャラリーだから、混むのは休み時間が多いんです。授業が始まると途端に静まり返って誰もいなくなり、100号やら200号の大きな自作品がずらりと並ぶ部屋に一人でいて、たまにコンクリート床の上を風にあおられた枯れ葉が移動する音がして、入り口の壁はガラス張りなので自然光が差してキラキラしていて。なんだか空間の完璧さに泣けてきました。
そんな感じで、在廊中ひとりの時はたいてい絵を見てますね。いらしてくださったお客様とお話するのは、とても勉強になり面白いし嬉しいです。ただ、普段あまり大勢の人と合わない生活のため、いつもと違いすぎて会期の後半には疲労で呂律が回らなくなっていることも。すいませんって思いながらヨロヨロと対応しているので、もうちょっと体力つけたいです。
ダメな日ありますよ。
基本的には、描けない時は無理に描かないのが良いと思うので、日程に余裕があるならあまり粘らずにその日はあきらめて他の作業をやります。
制作の行き詰まりって、完成に向かっているのか分からなくなるというか、同じところをぐるぐる回ってる感じですよね。決断力が落ちて弱気になっていたり、時間を無駄にしてる気持ちになってると思います。だからなるべく、量など目に見える形で成果が残るような作業をして、自分のご機嫌をとります。
頭ばかり疲れている場合が多いから、体を動かす作業があればそれを優先します。私の場合、支持体の木製パネルづくりは丁度いいんですよ。電動工具をつかって角材を切ったり、磨いたりするとよい具合に肉体が疲れてバランスがとれるうえ、労働の結果が完成品として目に見えるから今日は作業すすんだぞー!っていう充実感が得られていいんですよね。
問題はスケジュールが押しているのに、制作が行き詰まっている時です。描かないわけにはいかないので、とても焦ります。そんなときには朝起きると、手書きのTo Do リストを作りますよ。
ポイントは、かなり細かいことまで書き出すこと。ご飯を食べる・お皿を洗う・歯を磨く・洗濯物を干す・庭に水をまくという毎日の生活習慣レベルから、本を1章読む・実家に電話するとか、小品をひとつ完成させる・出品リストを作る・梱包材の在庫確認といったことまで、思いつくまま、制作に関係あるなし含めて書き出すんです。そしてどうしても今日やらないとまずいことに絞り、やる順番を決めます。その後ちゃんとやることを済ませるたび力強く横線で消して、上にOK!って元気よく書くんですよ。
生活習慣レベルのことは、よっぽど追い詰められていなければ、まあ、やれますよね。なのでOK!がたくさん並んで、まるですごく色んなことをやったような気持ちになれるんですよね。馬鹿みたいなんですけど、そうすると自信を取り戻すみたいで、なんとなくまた制作に戻れるんですよ。なるべく書き心地が良いペンでのびのびと書くのもとても重要です、気持ちがいいので。
小学生みたいな方法ですが、これ自分には効くのでよくやってます。個展が近くなって焦りがでてくると毎朝メモに、顔を洗う OK! とか書いて、なんなら花丸つけて、細かく自分を褒めてはやる気を絞り出してますよ。
書きながら思いましたけど、こういった制作がうまくいかない時の対処法を持っているかって、大切なことですね。宣伝や事務仕事は外注も可能ですが、制作に関しては作家がなんとかするしかないです。
長く作家活動を続けていればどうしても環境は変化するので、それに伴って体調崩したり、家族の事情に振り回されたり、以前のようには制作に集中できないような時期がくることがあります。そこを騙し騙しでもどうにかこうにかやりすごせた人が、作家として残るのかなと思いました。
ぜひ小河さんの方法も教えてください。