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始発

久しぶりに朝四時のアラームをかけた。半同棲していた時のアラーム時刻。あの人は四時半に家を出て、駅に向かうまでの間の坂から街を見た景色を送ってくれていた。もうそんな日は過去のお話だ。

私は始発の電車に乗って、山に向かった。まだ真っ暗。この時間のこの空気をあの人も感じながら坂を下ったのかななどと、ノスタルジーな気分になったがそれどころじゃない、わたしはこれから3時間かけて山に向かうんだと奮い立たせた。

前回書いた通り、仕事関連で知り合った人に(特別親しくもない人)「山に連れてってください」といったら本当に実現することになった。私は社交辞令を一切言わないタイプの女だが、まさか実現すると思わなかったから嬉しすぎた。男性に「山に連れて行ってほしい」と伝える自分のアクションにも驚いたけれど。

今回の山登りについて、その人は超がつくほど綿密に色々と計画を立ててくれた。
私が朝電車に乗る時間だとか、靴はどうしたほうがいいとか、色々指示してくださって助かった。彼の指示通り、私は始発の電車に乗って山に向かった。

私はほぼ下調べせず、彼にお任せしてついて行ったのだが、初心者の私には難易度高めの山だった。一気に登り口から700メートル上がって標高1000の頂上を目指すコース。私は服のレイヤリングだけしっかりして、軽いリュック一つ。入念な彼は縦走でもするのかという荷物量だった。

親しいわけでもないので、とりあえず何か喋らなくちゃと彼は思ったようでずーっと喋って登山をした。お互い息切れしながら…
途中景色がいいところで、彼は持参したお湯とドリップコーヒーを広げ、コーヒーを淹れてくれた。なんと夢みたいな。私は本当に幸せだとその時思った。

朝から帰る時までずーっと喋った。私の質問に対して、彼は真面目なので背景から話し始め、本題を話す。自然と一つの話題について話が長くなる。一生懸命話してくれるので、CPUをどうぞ120から30まで落としてくださいと頼んだ。多分、私よりコミュ障で、私より多感で頑張る人なのだと思った。

山に登ると一切のことを忘れられる。自分の視野の狭さを一気に広げてくれる。
山という共通項で話ができる。行ったことのないエリアに行くことができる。
いいあらわしようのない悲しい気持ちをきゅっと拭いてくれる。

私は心の回復のためにも、週一、登山か足慣らしすることにした。














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