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スウェーデン留学記#19 和食伝導よもやま話

私は食べることが好きだし、料理も好きなのでシェアハウスでは毎食台所に立って食事を用意していた。現地料理に挑戦しようと思ってスウェーデン料理を作ったり、他のハウスメイトたちの料理を見よう見まねで覚えたり教えてもらったりもしたし、何とか材料を調達して和食を作ったりもしていた。和食の材料の調達で最初に困っていたのは米だ。スーパーで普通に売っている米は、細長いインド米のような形で炊いてもパサパサしていて、カレーには合うものの、求めている「ご飯」ではない。「日本米」と称される米も売ってなくはないのだが、一袋に少量しか入っていないし、先の「インド米」の数倍は値が張る高級品だった。さて、どうしようと思っていたところで見つけたのが、「おかゆ米」と称して売られている米だった。インド米よりも粒が丸々太っていて日本米に近そうだ。物は試し、ととりあえず買ってきて水分量を調整しつつ炊いてみたら、求めている「ご飯」が炊けた。艶々と光って、程よくもっちりしている。初めに食べた時、味が日本製のとは違うと感じたものの、毎日食べていくうちにこれも慣れた。

和食用の調味料は意外と簡単に入手できた。Blue Dragonというイギリスの食品会社が、和食のほかにアジアの各国食品を幅広く販売していたからだ。だから、ルンドに住み始めて早々に私は味噌と醤油、うどんを常備することができた。味噌といえば、フランス人のアメリに一度味見させてあげたらかなり気に入っていた。自分の料理にも取り入れたいらしく、何かと「あなたの冷蔵庫の"mizo" ちょっともらってもいい?」と聞くようになった。フランス語では味噌は"mizo"と発音するらしい。一度「発音が間違っている、味噌は日本語では"miso"と発音するのだ」と訂正したら、「いや、日本語ではそうかもしれないけど、フランス語で味噌は"mizo"だから」と押し切られた。フランス人が味噌をどう使いこなすのか興味があったので、私は気前よく味噌を差し出し、彼女の料理を観察していた。彼女は料理のセンスがあった。驚くべきことに、このフランス人はまもなく「ナスと味噌、最高」とか「ネギと味噌、最強」という法則を見出し、自ら「ナスのみそ炒め」を考案し、「ネギと味噌のパスタ」を発明した。「ナスと味噌」「ネギと味噌」の普遍性を目の当たりにし、私は感動した。とはいえアメリがあまりにも頻繁に味噌を使うので、味噌は共同出資することになった。

私が度々作っていた和食には、他のハウスメイト達も興味津々だった。しかも、「寿司」とか「お好み焼き」のように分かりやすい和食よりも、「きんぴら」とか「餡かけごはん」のようになんてことない日常料理の方が注目を浴びた。そういう時は大抵ハウスメイト達が物欲しげな顔でじっと私の料理を見て、「いい匂い〜」とか「美味しそう〜」とため息をつくので、気が向いた時には一口ずつ味見させてあげていた。もう一人のフランス人であるクラーラも料理が好きで、一度きんぴらを試食したらえらく気に入り、作り方を習いたいと言ってきた。簡単なのですぐに教えると、その後何度も自分で作っていた。餡かけにはアメリもクラーラも食いついた。これも作り方を教えると、自分たちの料理に様々に応用していた。餡の保温効果にも気づいたようで、冬場は特に活用していた。

自分の国の料理を他国の人が美味しいと言ってくれるのは嬉しいものだ。しかも作り方まで習得して自分のものにし、そこから新たな創作料理が生まれていく過程にはロマンがある。かくして文化は育まれていくのだ。

帰国してもう3年経ったが、いまだに私がクラーラから教わったピザを家で作るように、アメリやクラーラ達もどこかでナス味噌炒めやきんぴらや餡かけご飯なんかを作っているのだろうか。そうだと嬉しい。

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