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スウェーデン留学記#38 北極圏への旅③イェリバリの雪山ハイキング

イェリバリについて2日目の早朝はオーロラ観測確率が最も高くなるとオーロラ予報アプリが教えてくれた。予報に従い、朝4時ごろに疲れた体を引きずり私たちは起床した。

なるべく周りに建物がなく、暗い場所に行かないとオーロラを見れないと言うアメリの意見に従い、私たちは宿から徒歩30分ほどの山の麓に向かった。雪道を歩いて行くと道の脇に生えている木々の氷柱が、反射した雪灯に照らされてキラキラと光っていた。真っ暗で人気もなく、山に近づくにつれて雪山の気配が濃厚となっていき、若干の恐怖を感じた。

まだ歩くのかと思った頃、ようやくアメリが立ち止まり、ここを撮影スポットにしようと言った。ちょっと開けた山道である。私は留学に合わせて一眼レフを奮発購入したのはいいものの、カメラ用三脚は持っていなかった。ネットで三脚の代わりになるものを調べると、なんと折りたたみ傘の頂点のキャップを外したネジが一眼レフの三脚取り付け穴にピッタリとはまり、カメラを固定できるという。手持ちの折り畳み傘で試してみると、本当に固定できた。撮影スポットについてすぐに私はこの突貫工事に取り掛かり、見事に雪の上にカメラを固定することができた。問題は雪の上に這いつくばらないと、撮影できないことである。仕方なく這いつくばりながら、オーロラの登場を待った。このおかしな日本人の挙動に、フランス人達は「いいアイデアのようで、あんまりいい案ではないね。」と苦笑気味だった。でも一生に一度の撮影チャンスなのだから、なりふり構ってはいられない。

しかし、この辛い体勢で待てども待てどもオーロラは一向に現れなかった。これ以上ここにいたら、凍死するのではないかと思い、ついに私達は音を上げた。まだ明日もチャンスはあるが、少し消沈しながら、帰路に着いた。途中、前方5mくらいの距離の雪道をサッと動く影があり、息を飲んだ。野生のトナカイの親子だった。生き物の気配がないシンとした銀世界に突然現れたこの野生動物は神秘的な気配すら纏っていて、私達はしばらく動けなかった。やがてクラーラが「今の見た?」とひそひそ声で囁き、ようやく私達は我に返った。彼らを見れただけでも、今朝遠出した甲斐があったと、私達は納得した。

ホテルに戻ると、温かい朝食が用意されていた。ビュッフェ形式で、パンやらハムやら果物やらを各々好きなだけとり、一息ついた。冷え切った身体に温かいコーヒーが沁み渡る。

部屋に戻り、束の間の休憩時間を味わった。この後、もう少し遠くの山まで遠出して、今日は雪山ハイキングを行うのである。もちろんこの強行スケジュールの立案者はアメリである。アメリは元々ハイキングや登山が趣味なので、体力気力ともに抜群なのだ。

ハイキングに出かけるころには、空が白んできた。イェリバリは日暮れも早いので、少し急足で出掛けた。ハイキングコースはアメリが調べてくれているので、私達はついて行くだけで良かった。指定のコースだけあって、歩きやすく景色も良かった。おとぎ話のような一面の銀世界である。朝焼けをバックグラウンドに聳え立つ山々は幻想的な薄桃色に染まっていた。雪を被った針葉樹林が美しく、私達はことある毎に立ち止まってはシャッターを切りまくった。

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ハイキングコースの途中地点にはレストハウスがあって、そこで昼食が食べられるはずである。雪道を歩くといつの間に体力を消耗しているようで、お昼を回ることにはお腹ペコペコになっていた。ようやくレストハウスに着いたのは午後2時ごろ。しかし、あろうことかレストハウスのレストランは営業していなかった。クリスマス休暇中だったためだ。私達は途方に暮れた。雪山真っ只中で他に食事を売っている場所は無い。何かパンでも持ってくればよかった。レストハウスの人に聞くと、ここらへんではもう少し先に進んで山を下ったところにあるスキー場でしか食事できないという。さらに先に進めばホテルに帰る時間が遅くなるという危険がある。しかし、空きっ腹には抗えなかった。私達はスキー場に向かうことにした。

ようやくスキー場に到達したのは午後3時ごろ。急いで軽食を注文し、お腹に納めた。私はビーツのサンドイッチ、アメリ達はフライドポテトを食べていた。このスキー場のレストランはなかなかにオシャレで、クリスマス仕様にツリーが飾られていたり、各テーブルの上にかわいいキャンドルが灯してあって、ほっとする空間だった。時間があればもう少し休憩したいところだったが、午後2時ごろから日が暮れ始めているので気が急いた。早く帰路につかないとあっという間に暗くなってしまう。最低限の休憩をとって、レストランをでた。少し山を下ってしまったので、しばらく登り道である。これが腰にきた。アメリは日頃から鍛えているのもあるようで、余裕そうだ。しかも、アメリは私達3人の中で1番背が高いだけあって、一歩一歩が大きいのである。対して私とクラーラは体力がない上に、歩幅が小さいので雪に足を取られて一歩毎に余分に体力を消耗していく。ヘロヘロになりながら、前進した。冷えたせいか股関節や腰も痛む。刻一刻と辺りは暗くなっていき、口数も少なにとにかく歩くことに集中した。雪山の上で迷子になったら、それこそ命の危険が迫る。

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頑張った甲斐があり、夕方18時ごろにはホテルがある街の光が見えてきて、心底ほっとした。今思えば、かなり無謀な冒険だった。無事に帰って来れてラッキーだった。ホテルに戻った後、昨日と同じレストランで夕食をとった。この日はケバブライスを選んだ。モリモリの肉にテンションが上がる。

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こうしてイェリバリ2日目、過酷な一日中を無事に終えることができた。(続く)

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