スウェーデン留学記#30 フルーツこぼれ話
ルンドに来て嬉しい驚きだったのは、日本と比べて果物が圧倒的に安いことだ。日本の果物は贅沢品として贈答用に使われることも多く、農家さんが手間暇かけて一つ一つ丁寧に育てているため高品質である。だから値段相応の美味しさ (いや、それ以上?)ではあるのだが、ビタミンを日常的に摂取したく、果物大好きな私としてはヨーロッパの量産型の安い果物は非常にありがたかった。
この機を逃す手はない!と、留学中は果物を食べまくった。特にぶどう、白ぶどう、ベリー類 (イチゴ、ラズベリー、ブルーベリー)は週替わりのルーティンを組んで購入した。実家ではブドウ一房を弟や妹たちとお互いに遠慮しながら数粒食べる程度だったので、一房まるまる自分のものだというのが嬉しかった。リンゴや洋ナシは前の記事に書いたように、シェアハウスの庭に呆れるほどなっていたので心ゆくまで楽しむことができた。
スーパーの果物コーナーには柿がそのまま"KAKI"と表示されて売られていてびっくりした。柿は英語で"persimmon"と言うから、対応するスウェーデン語があってもおかしくない。そう思って調べたら、なんと柿は日本特有の果物で日本の国果でもあるという。柿の学名もDiospytos Kakiとそのままである。「柿食えば鐘が鳴る成り法隆寺」なんて詠まれているから、日本に古くからある果物であることは知っていたけれど、ヨーロッパで食されている柿が日本から伝わってきていたとは。我が家にも毎年お歳暮の頃になると美味しい柿が贈られてきていたから、贈答品としても名高い柿はスウェーデンではもちろん安く、学生が授業の合間なんかにそのまま生で皮ごとガブリ!とかぶりついているところも見かけたことがある。りんごを間食に食べている学生はよく見かけるけれど、柿も同じくらい気軽な感覚で食べられているとは羨ましい限りだ。授業の合間にガブリ!とはいかないまでも、もちろん私もせっせと柿を食べた。
ネットに山盛り入っているオレンジ類も人気なフルーツで、ハウスメイト達もしょっちゅう食べていた。ある日、夕飯のあとに何人かでミカンを食べていたら、途中からアメリが目を丸くして私のミカンをガン見していたことがある。クラーラとシモーネもそれに気づき、私のミカンを見て驚いたようだ。アメリは感嘆の声で「何その剝き方!初めて見た!あなたすごい芸術的なのね」と言うから、ミカンの剥き方のことだと分かった。日本でもミカンの皮の剥き方には様々な流儀があると思うが、私はヘタがない方から花びらみたいに皮を剥く派である。この花びら方式の剥き方はどうもヨーロッパでは普通ではないらしい。確かに、他のハウスメイト達は思い思いにちぎっているので、花が形成されていない。日本では結構こういう剥き方が一般的なのだと説明すると、流石日本人!美意識が高い!などと褒められ、悪い気はしない。「確かにこの剥き方の方が皮が散らばらないし、見た目可愛いしいいね!私この剥き方気に入った!」と、彼女たちも真似し始めた。初めてやると意外と難しいらしく、シモーネは花びらにする途中で皮がちぎれて悔しがっていた。アメリとクラーラはなんとか花を作り上げ、満足げだ。
「こたつでみかん」ではないが、外が寒く暗い夜にこうしてみんなで食卓を囲ってミカンを食べるというのは、それだけで心が温まるものだなあとほっこりした思い出である。