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スウェーデン留学記#23 社会科見学で旧Barsebäck原子力発電所へ

ルンド大学で最初に取ろうと思っていた授業のうちいくつかは抽選で外れて取れなかった。その代わりに取った授業の一つが「スウェーデンの技術と文化」というものである。これが意外と良かった。何が良かったかと言うと、先生が良かった。博識でフランクなので質問しやすかったし、質問するとそこからさらに面白い話を広げてくれた。だから授業中も授業後も生徒からの質問がひっきりなしに飛んだ。先生自身が好奇心の塊のような人で、その熱意が伝わるのか、私たち学生も自然と授業に入り込むことができた。それに歯に衣着せぬ率直な物言いをする人で、スウェーデンのいいところも悪いところも開けっ広げに全て話してくれた。例えば、「環境先進国」「福祉国家」「男女平等国家」などと国際的にスウェーデンは評価が高いが、実はこういう内情があったり、こういうデメリットもあるんだよ、などとさらりと裏事情を打ち明けてくれる。スウェーデンという国を理解しようと学ぶ上で、留学して最初の時期にこの先生に出会えたことは幸運だったと思う。

講義内容としては、スウェーデンのインフラ、福祉、産業、教育、軍事、政策、健康問題、男女平等化、娯楽の歴史などスウェーデン社会に関するもの何でもありだった。思い出深いのは民族問題についての授業の時に、それにちなんでPolarbröd社の小麦粉パン、ライムギパン、クラウドベリーのジャムを持ってきてくれたことだ。スウェーデンの北の地域にはサーミというトナカイを飼う遊牧民族が暮らしている。授業では近年様々な賞を受賞し話題になった『サーミの血』という映画の一部を鑑賞した。Polarbröd社が作っているのはその北の地域で昔から食べられている伝統的なパンで、ピタパンのように丸く平べったいふわふわのパンだ。トナカイの肉などをはさんで食べるらしいが、先生はトナカイの肉の代わりにジャムを持ってきてくれたというわけだ。クラウドベリーは北ヨーロッパや北海道など亜寒帯に育つ黄色いベリーだ。イチゴやラズベリーよりは酸味があるが、甘酸っぱくて粒々とした食感が美味しかった。ベリーといえば、スウェーデンではリンゴンベリーが大人気で、これはコケモモから作られている。甘さ控えめなためか、肉料理やジャガイモなどの食事にも添えられていて、一緒に食べると意外と合う。

さて、この授業の社会科見学でBarsebäckKraftという今は使われなくなった原子力発電所を訪れた。スウェーデンでは脱原発の動きが進み、2005年にここの2号機が永久停止されて以来解体作業が進められいる。中は見学できるようになっていて、私達もここの歴史や原子力発電の仕組み、解体作業の進め方、放射性廃棄物の処理の仕方や未来のエネルギー問題などについて説明を受けながら、案内してもらった。実は私は小学生の頃に、新潟の柏崎刈羽原子力発電所を見学したことがあるので、その時の記憶を思い起こしていた。幼少期の記憶なので朧気ではあるが、中の仕組みなどは似たようなものであると感じた。ただ、衝撃を受けたのがフィルター付きベントシステムの説明を受けた時だ。フィルター付きベントシステムとは、万が一原子力発電所で重大な事故が起こり、原子炉格納容器内が加圧になった際、放射性物質を低減するフィルターを通じて外に気体を放出することで減圧し、格納容器が損傷して環境中に大量の放射性物質が拡散するのを防ぐシステムである。放射性物質を完全に除去できるわけではなく、低減することで周囲環境への被害を最小限に抑えようとする目的のものである。このシステムが福島原発になかったのは非常に残念なことです、とガイドさんが付け加え、ちらりと私達日本人を見たような気がした。え?と耳を疑う。なかったの???日本人としては複雑な気持ちになる。事故が日本で起きたという皮肉。なぜなかったのか、という疑問だけが頭を回り、被害の大きさを思うとやるせない気持ちになる。そしてそのシステム自体知らなかった自分の不勉強さも苦い。帰って調べてみると、欧州の原発にはこのシステムが必ず取り入れられているらしい。福島の事故の後では日本でも全ての原発にこのシステムを導入しているらしい。

もう一つ驚いたのが、スウェーデンのエネルギー事情の話だ。スウェーデンのエネルギーのほとんどは原子力と水力だから、一見化石燃料に頼らず再生エネルギー重視で上手く回っているように見える。ところが北欧4カ国では電力の小売自由化により、不足分のエネルギーを自由に購入できる。実際スウェーデンも隣国デンマークなどから電力を輸入しているが、そのデンマークでは火力がメインとなっているので、実質スウェーデンも火力に頼っていると言わざるを得ない。統計からは見えにくい裏事情だ。これをガイドさんはすらすらと話してくれた。

見学が終わった後、施設の方はFikaと称しておやつを振舞ってくれた。クッキーやケーキなど様々なお菓子が並び、目移りする。スウェーデンのスーパーで初めて見かけた奇妙な見た目のお菓子達、Mazarin(アイシングがけのマドレーヌのような見た目), Delicatoboll(ココナッツがけのチョコレート), Punschrulle(緑色のマジパンとチョコが蝶ネクタイ型になってるお菓子)なども置いてある。これらは普段スーパーでは箱売りなので、不味かったらどうしようと手を出したことがなかった。せっかくだから味見してみようと、いただいた。どれもめちゃめちゃ甘かった。やはり、自分で一箱は食べれなさそうだ。ちなみにPundchrulleとは“掃除機”という意味だそうで、言われてみればなるほどたしかに、蝶ネクタイではなく掃除機のヘッドに見えなくもない。

帰りはバスが迎えに来てくれる場所まで牧場の横を歩いた。すぐわきには広大な海が広がり、空も高くスウェーデンらしい雄大な景色が続いている。

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バスの中では日本人の男の子と偶然隣の席になり、3.11の話をした。ちょうど同世代、あの時中高生だった私たちが感じていたどうしようも無い無力感のこと、だから大人になったら人や社会の役に立ちたいと強く願い、それが今学ぶ原動力となっていること。思いがけず日本からこんなに遠い地スウェーデンで同志に会えたような気がして感慨を覚えた。

3.11について、図らずも色々と考えさせられる一日となった。あの時の無力感に対する答えにはいまだにたどり着けていない。原点の気持ちを忘れずに、一生模索し続けようと思う。

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